塩野瑛久、『光る君へ』一条天皇は役者人生を変えるハマり役に 秀逸で繊細な感情の揺らぎ
7歳で即位し、天皇という特殊な役割の中で生きてきた一条天皇。兄弟はなく、母の詮子(吉田羊)は厳しく、甘えさせてくれる存在ではなかった。周囲は天皇という立場の自分に対して政治に利用したり、命がけの願いごとを投げかけたりして、自分でも理解はしつつ、さまざまな葛藤を抱えて生きてきたのだろう。
幼い頃から寄り添うようにそばにいてくれた中宮・定子を特別な存在として、強く愛するようになったのは、一条天皇にとって自然なことだったのかもしれない。
一条天皇と定子の楽しく幸せな時間がどれほど貴重で、華やかなものだったか……。清少納言(ファーストサマーウイカ)が、その輝くような日々を『枕草子』に収めているが、一条天皇にとって『枕草子』が光だとすると、登場人物に共感し、それぞれのエピソードが心に刺さって物語の真意を作者に尋ねずにはいられない『源氏物語』は心の闇をも描く影の物語ともいえるのかもしれない。
塩野瑛久は、ただ高貴で美しいだけではない、一条天皇の葛藤や苦悩、人間らしい感情の揺らぎを繊細に表現していてきている。彰子の突然の涙と「お上! お慕いしております!」という告白に動揺を隠し、「また来る」とその場を去ったが、改めて彰子と向き合い、「さみしい思いをさせてしまってすまなかったのう……」という言葉が優しく響く。
激しくも一途に愛を貫こうとした定子への思いとは別に、周囲を気遣い自分の思いを心に留めてきた彰子への新しい愛情が芽生えた尊い瞬間もまた美しかった。
俳優・塩野瑛久にとって本作の一条天皇役は素晴らしいほどのハマり役であると同時に、大きなステップアップにつながる重要な役柄となったはずだ。注目しないわけにはいかない。
■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK