『光る君へ』彰子の心を解き放つ見上愛の名演 涙の叫びが一条天皇の心を動かす

 『光る君へ』(NHK総合)第35回「中宮の涙」。道長(柄本佑)は中宮・彰子(見上愛)の懐妊祈願のため、御嶽詣へと向かった。その頃、まひろ(吉高由里子)の書く物語に興味を持った一条天皇(塩野瑛久)はまひろに物語の真意を尋ねる。まひろとまひろの書く物語に興味を抱くのは一条天皇だけではない。彰子もまた、まひろに心を開いている。そんな折、まひろは彰子の本心を知ることになった。

 タイトルにもある通り、第35回では中宮・彰子が涙を見せる。これまで気持ちを表に出すことがなかった彰子が、涙ながらに一条天皇への思いを言葉にする場面は心打たれるものだった。

 見上演じる彰子は第26回で初めて登場した。初登場時、彰子の台詞は「仰せのままに」のみ。表情に乏しく、何を考えているのかわからない彰子のことを、弟・田鶴(小林篤弘)は「ぼんやり者」と表し、道長は「仰せのままに」と繰り返す彰子に思わず語気を強めていた。

 晴れない顔つきが印象的な彰子だが、第33回では、敦康親王(池田旭陽)に明るい笑顔を見せていた。彰子は周囲から「うつけ」と誤解されているが、敦康親王との仲睦まじい様子、この場面で見上が見せた肩の力の抜けた笑顔には、彰子本来の姿、穏やかで心優しい人物像が表れていた。

 そんな彰子はまひろと出会い、少しずつ心を開いていく。彰子は口数は少ないが、人をよく見ている。まひろの前で自分の意志を示したのも、まひろにほかの女房たちとは違う何かを感じ取ったからだろう。彰子はほかの女房たちに対して、もの言いたげなまなざしを見せつつも無言のままだが、まひろに対しては自分から行動を起こす。第34回では、彰子は自らまひろの局へ出向き、「上巳祓」の日には「父上が心からお笑いになるのを見て、びっくりした」と自分からまひろに話しかけた。見上は、そのまなざしや何か思うところはあれど口をつぐんでいるのが分かる面持ち、控えめながらも彰子自身の意志であることが伝わる台詞の言い回しなど、こまやかな演技で彰子の感情の機微を表している。

 そして第35回。彰子は「光る君」の物語の続きに登場する「若紫」を自分の境遇と重ね合わせる。若紫の行く末について、まひろから「中宮様はどうなればよいとお思いでございますか」と問いかけられ、戸惑いながらも彰子は答える。

「……光る君の妻になるのがよい」

 そう口にした口元は悲しげに見え、その目も心なしか涙で潤んで見えた。そして「妻になる。……なれぬであろうか。藤式部、なれるようにしておくれ」と話す口ぶりには、自らの一条天皇への思いを重ねているのが感じられる。そんな彰子の心を感じ取り、まひろは優しく「帝にまことの妻になりたいと仰せになったらよろしいのではないでしょうか」「帝をお慕いしておられましょう」と諭した。この時の見上の瞬きには、彰子が自分の本心を見抜かれ困惑する様が実によく表れている。

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