“非殺傷のアクション”が放つ静かな興奮 Netflix『レベル・リッジ』は比類なき一作に

 そして絶対に言及しなければならないのは、そんなテリー・リッチモンド役を務めたアーロン・ピエールの存在感だ。バリー・ジェンキンスに見いだされ、本作でジェレミー・ソルニエに抜擢され初の実写主演映画を務めたアーロン・ピエールは、決してスター俳優ではない。現時点では。少なくとも5年以内、アーロン・ピエールは世界で知らない人がいない俳優になると思う。

 アーロン・ピエールはテリー・リッチモンドという深い怒りと哀しみを抱え、時に苦悩し、それでいてなお常に理性的で決断的な男をとても巧みに表現している。彼の枯草色の瞳はその奥底に繊細な感情があることを想起させ、とても魅力的に映る。……そういう言葉を抜きにしても、アーロン・ピエールは見るからにカッコいい。ルイジアナ州の大地に直立するその立ち姿はまるで岩に打ち付けられた鉄杭のようであり、どう見てもただ者ではない存在感がある。

 本作は元々ジョン・ボイエガが主演する予定だったそうだがある事情で降板し、後にアーロン・ピエールが起用された。仮にジョン・ボイエガが主演を務めたとしても『レベル・リッジ』は素晴らしい作品になっただろうが、それでもアーロン・ピエールがこの作品で独自の存在感を発揮し、『レベル・リッジ』をより素晴らしい高みに押し上げたことは疑いようがない。少なくとも、これからアーロン・ピエールが主演を務めるアクション映画を見たくなるのは間違いない。仮にアーロン・ピエールがこのまま鳴かず飛ばずで終わったとしても(既にバリー・ジェンキンス監督『ライオンキング:ムファサ』で主演を務めることが確定しているが)それはハリウッドに欠陥があることの証明にしかならないだろう。

 本作は「警官と黒人」のシンプルな対立ではなく、問題の本質は常に物語の外側にある。それでもなお不正に対抗し、己の筋を通す主人公の姿が熱い。そしてテリーの行動の果てにシステム化と略号によって省略されがちな人間性が光る。

  『レベル・リッジ』は控え目な演出なれど、静かな興奮と痺れるような瞬間がある。また、悪党の頭をふっ飛ばさなくても、観客の血を沸き立たせることができると証明して見せた(開放骨折はあるが)。イリヤ・ナイシュラー監督のジャンル映画『Mr.ノーバディ』(2021年)が主人公から正義感と正当性を排してアクションの娯楽性の本質は暴力であると提示したように、『レベル・リッジ』は不殺を貫いたことでアクションの娯楽性の一つは決断的であることだと提示している。ジェレミー・ソルニエ監督は確かな手腕と独自のセンスと着眼点によって、ジャンル映画に留まらない無二の傑作を生み出した。

■配信情報
Netflix映画『レベル・リッジ』
Netflixにて配信中
監督:ジェレミー・ソルニエ
出演:アーロン・ピエール、ドン・ジョンソン、アナソフィア・ロブほか

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