『虎に翼』約6分間の長尺で描かれた“原爆裁判”の判決 苦しむ声を無視しない寅子の姿勢

 昭和38年12月7日。満員の傍聴席。約4年間、27回にも及ぶ準備手続を経ての口頭弁論まで、およそ8年間に渡って行われてきた「原爆裁判」の判決がついに言い渡される。『虎に翼』(NHK総合)第115話では、後半パートの約6分間、裁判長の汐見(平埜生成)が判決を読み上げ、閉廷するまでの長尺シーンが描かれた。

 裁判は国側の勝訴。原爆被害の損害賠償を国に求めた原告らの請求は棄却された。だが、その判決主文は後に回し、先に判決理由の要旨を読み上げるという、当時としては異例の出来事となった。

 広島市、長崎市に落とされた原子爆弾は無差別爆撃であり、当時の国際法から見て違法な戦闘行為であること。だが、吉田ミキ(入山法子)をはじめとする損害を受けた個人が損害賠償請求権を有するかというと、残念ながら個人に国際法上の主体性が認められず、その権利が存在するとする根拠はないということ。

 ここで記者たちが「国側の勝訴」を確信し速報を伝えようと一斉に立ち上がるが、「(ここからだ)」と言わんばかりに汐見の語気が強くなり、記者たちはおずおずと席へと戻っていく。

 汐見が伝えたかったのは、原爆被害の救済策はもはや裁判所の職責ではなく、立法府である国会および行政府である内閣において、果たさなければならない職責ではないかということ。そこに立法、および立法に基づく行政の存在理由がある。終戦後、十数年を経て高度の経済成長を遂げた日本には、国家財政上、これが可能であると。「我々は本訴訟を見るにつけ、政治の貧困を嘆かずにはおられないのである……」という一節で判決理由は締めくくられる。

 国側の勝訴を受けて、よね(土居志央梨)の頬に落ちる涙、志半ばで亡くなった雲野(塚地武雅)の写真を見つめる岩居(趙珉和)、傍聴席に一人残った記者の竹中(高橋努)。その沈黙が8年という歳月の長さ、そして無力さを物語っているが、判決主文を後回しに、この原爆裁判を請求棄却の一言で終わらせないように働きかけたのは寅子(伊藤沙莉)だ。

関連記事