『海のはじまり』田中哲司が見せた予想外の一面 生方美久の過去作を彷彿とさせる要素も

『海のはじまり』田中哲司の予想外の一面

 注目すべきは、夏が心の内を明かす際の巧みなカメラワークだ。カメラは意図的に父・基春の背中を捉え、そこに微かながらも確かな親子の絆を映し出す。基春の言葉の端々からは、不器用ながらも確かに存在していた愛情が垣間見える。しかし、その愛には日々の責任や関わりが伴っていなかったのではないか、という疑問も浮かび上がる。

 そして「楽しみたい時に楽しみたいだけなら趣味」という基春の言葉は、現在の夏の姿勢を鋭く暗示しているようにも聞こえる。たった1週間の子育て体験で理解できることは限られているはず。それでも夏は、責任の伴う真の「親子」関係を海と築き始める決意を固める。

 『海のはじまり』第8話の展開は、生方美久の過去作品である『silent』(フジテレビ系)や『いちばんすきな花』(フジテレビ系)を彷彿とさせる要素がちりばめられているように感じられる。これらの作品には、一見単純に見える人物像や状況が、新たな視点の導入によって多層的な解釈を可能にする巧みな構造が見られるのではないだろうか。

 例えば、『いちばんすきな花』では椿(松下洸平)の家に集まった4人が共感する「2人組が苦手」という価値観が、美鳥(田中麗奈)の登場によって覆された。この展開は、ある意味では、作品内の“スタンダード”だった価値観に疑問を投げかけ、観客の視点を揺さぶる効果があったように思われる。同様に、『silent』では音の聞こえる世界を生きる紬(川口春奈)の視点が中心に据えられながらも、奈々(夏帆)の視点が加わることで、想(目黒蓮)の音のない世界がより立体的に描き出されていた。

 『海のはじまり』第8話においては、当初「ろくでもない父親」として描かれていた夏の実父が、予想外の一面を見せることで、観客の認識を揺るがす。簡単に善悪を判断できない人間の複雑さを浮き彫りにし、多様な角度から人間と社会を描こうとする姿勢は、さすが生方美久の脚本と言ったところだろう。

 このような多層的な人物描写の中で、今後描かれるのは弥生(有村架純)の複雑な心境だろう。彼女の内面には、夏への想いと、海の存在による戸惑いが交錯しているように見える。

 第9話では、このような割り切れない感情を抱えた弥生が、どのような行動を取るのかが焦点となりそうだ。水季から「夏くんの恋人へ」宛てた手紙の存在は、弥生にとって重大な意味を持つことになるのだろう。

■放送情報
『海のはじまり』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:目黒蓮、有村架純、泉谷星奈、木戸大聖、古川琴音、池松壮亮、大竹しのぶほか
脚本:生方美久
演出:風間太樹、髙野舞、ジョン・ウンヒ
主題歌:back number「新しい恋人達に」(ユニバーサル シグマ)
プロデュース:村瀬健
音楽:得田真裕
制作・著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/uminohajimari/
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