『逃げ上手の若君』アニオリ演出にみる足利尊氏の“カリスマ性” これまでの人物像に迫る

 後半戦では尊氏の圧倒的な強さが美麗な映像とともに描かれた。洗練された顔つきとは裏腹に、何を考えているのか分からない不気味さ。尊氏の行動原理は何なのか。その得体のしれない狂気がラスボスとしての圧倒的なカリスマ性を描き出している。

 現在、京では後醍醐政権の中で、権力争いの真っ只中にあった。1人は武士の代表となった尊氏、そしてもう1人は征夷大将軍の護良親王だ。護良親王は帝に背く可能性がある尊氏を討つために、尊氏と対峙する。だが、尊氏の剣の実力は他をも凌ぐ圧倒的なものがあった。尊氏が剣を振りかざした刹那、護良親王の大勢の部下たちの首を一瞬にして切り落としてしまう。一切表情を変えることなく、残虐な行為に及ぶ尊氏に恐怖を抱いた視聴者も多かったのではないだろうか。

 尊氏が初登場したのは第一回。時行の前に現れた尊氏は討幕派を鎮圧するために京に向かう直前だった。時行は尊氏の忠誠心に目を輝かせており、誰も尊氏が反逆するとは思ってもいなかった。鎌倉幕府を滅ぼした尊氏は「声が聞こえる……。誰だ? 我を天下に押し上げるのは……」といった言葉を残しており、彼の裏には何者かの存在を暗示させているが、詳細は不明だ。炎の中で声を上げる尊氏は戦いを楽しんでいるようにも見え、時行とは対照的な人物として描かれている。一方で、眼の中に複数の瞳が存在する描写もあるほか、護良親王が「人ではない何かが……それの体内で蠢いている!」と話すなど、人間を超えた人物としての描写も多い。

 第六回では民からの信頼を失った護良親王に対して、圧倒的な魅力で崇拝される尊氏が描かれていた。原作ではかなりグロテスクな表現で描写されていたが、アニメでは尊氏の強さを出生から視覚的に描くことで、人知を超えた存在としての尊氏を強く印象づける。

 この先、凄まじい武力とカリスマ性を持つ尊氏に対して、時行はどのような逃げの戦術で対抗していくのだろうか。毎話気合の入った作画とともに楽しみたい。

■放送情報
『逃げ上手の若君』
TOKYO MX、BS11ほかにて、毎週土曜23:30〜放送
キャスト:結川あさき、矢野妃菜喜、日野まり、鈴代紗弓、悠木碧、戸谷菊之介、中村悠一、小西克幸
原作:松井優征(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:山﨑雄太
シリーズ構成:冨田頼子
キャラクターデザイン・総作画監督:西谷泰史
副監督:川上雄介
プロップデザイン:よごいぬ
サブキャラクターデザイン:高橋沙妃
色彩設計:中島和子
美術監督:小島あゆみ
美術設定:taracod/takao
建築考証:鴎利一
タイポグラフィ:濱祐斗
特殊効果:入佐芽詠美
撮影監督:佐久間悠也
CGディレクター:有沢包三/宮地克明
編集:平木大輔
音響監督:藤田亜紀子
音楽:GEMBI/立山秋航
音響効果:三井友和
制作:CloverWorks
©松井優征/集英社・逃げ上手の若君製作委員会
公式サイト:https://nigewaka.run/
公式X(旧Twitter):@nigewaka_anime

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