岡部ひろきの演技の“転調”に期待! 『虎に翼』で展開する冷静なパフォーマンス

 放送中の朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)の第18週「七人の子は生すとも女に心許すな?」では、ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)と新潟の人々との関係値ができはじめているところ。

 それでも、やはり彼女と対立する存在はいる。そう、入倉始という青年である。演じているのは岡部ひろきだ。

 この入倉という青年は、新潟地方裁判所・刑事部である星航一(岡田将生)の部下で、判事補を務めている人物だ。偏見と憶測で物事を断定してしまうきらいがあり、この性格によって寅子とたびたび対立するわけである。

 パッと見の印象は品のある青年だが、罪を犯した若者のことを「ガキ」と呼んだり、放火の疑いがかけられている朝鮮人のことを「ヤツ」といったり、寅子が「はて?(ここでは「ちょっと待ちなさい」のニュアンス)」と返して当然の言動が目立つ。いや、いち視聴者の視点からしても、彼の言動には目に余るものがあるだろう。

 とはいえ入倉には入倉の持論がある。彼としては客観的な事実を述べているだけだということらしい。物事を理想や綺麗事で語るのではなく、ただ現実の話をしているというのだ。

 たしかに、他者を信じようとするあまり、判断を誤ってしまった過去が寅子にはある。たとえばそれは、義父母と子どもの親権を争う両国満智(岡本玲)が、じつは“立場の弱い女性”を演じていたケースなどだ。あのとき彼女が捨てゼリフとして残した「先生もご存知のはずですよ? 女が生きていくためには、悪知恵が必要だってこと」は強く印象に残っている。この言葉を向けられた張本人である寅子にとってはなおさらそうだろう。

 しかしながらやはり、決めつけはよくない。しかも入倉の発言には、あきらかな偏見と差別が感じられる。これは言語道断。裁判官としてあるまじき態度である。

 はじめて入倉が姿を見せたとき、「いい顔の俳優がいるな」と思った。私たちは日常をどのように過ごすのかによって、それが顔に出るものだ。食事や運動、睡眠などの生活習慣はもちろん、社会をどのように見ているのか、物事をどのように考えているのかが顔に出る。表情に出るものなのだ。前髪を気にする入倉にはどことなく品の良さが感じられるが、いつも仏頂面。これらがどこからきているものなのか分からないが、入倉の“これまで”と“日常”が垣間見えるだろう。

 ここで演じる岡部がいろいろな感情を乗せようとすると、とたんに入倉始のキャラクターは掴みどころのないものとなるだろう。もちろん、人間は誰だって複雑で掴みどころがないものだ。しかしこれは毎朝15分ずつだけ進むドラマだから、一人ひとりが自分の役の情報を過剰に入れ込もうとすると、作品として散漫な印象を視聴者に与えることにもなりかねない。

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