『怪盗グルーのミニオン超変身』の驚くべき挑戦 4作目だからこそ可能になった前衛的な試み

 次々とヒット作品を送り出している制作会社イルミネーション。その代名詞といえば、スタジオの記念すべき第1作となり、数々の続編やスピンオフを生み出した『怪盗グルー』シリーズだ。そこには、ピクサー・アニメーション・スタジオでいえば、『トイ・ストーリー』シリーズと同等といえる、スタジオの魂が宿っている。

 そんな『怪盗グルー』シリーズの4作目にあたるのが、最新作『怪盗グルーのミニオン超変身』である。そしてこの一作は、『トイ・ストーリー』シリーズには発生しなかった、シリーズ全体に共通する“ある問題”と、最も向き合った内容で、驚くべき挑戦をした内容となっている。ここでは、その挑戦とは何なのかを明らかにしていきたい。

 悪党が主人公になり子育てをするという、ギャップを楽しむ趣向が楽しい『怪盗グルー』シリーズ。悪ぶっていたグルーも、いまや悪党を捕まえる「反悪党同盟(AVL)」の一員となり、ルーシーとの結婚も経験。養子のマーゴ、イディス、アグネス、そして本作で登場する、妻のルーシーとの新たな子ども「グルーJr.」らとともに楽しい家庭を築いている、もはや“善きパパ”の風情だ。

 本シリーズには毎回、さまざまな個性を持ったユーモラスな悪役が登場する。今回ヴィランとしてグルーの前に立ち塞がるのは、高校時代の因縁の同窓生、「マキシム・ル・マル」。どぎついフランス風の人物で、昆虫との融合を果たすことで人間の能力を超えた強力な悪党である。だが彼と全面対決をするには、現在のグルーには守るものが多すぎる。家族を安全な環境に移すため、保護プログラムを受け入れて引っ越し、別名を名乗って新天地で生活を始めるのだ。

 今回、グルーが真に乗り越えなければならない試練は、父親と打ち解けようとしないグルーJr.との関係を改善することである。グルーJr.を狙うマキシムの陰謀との戦いのなかで、それを成し遂げていくのが、本作のメインストーリーということになるだろう。

 ここで気になるのは、ミニオンたちがどのような役割を果たすのかということだ。なぜなら『怪盗グルー』シリーズのなかで、もはやミニオンの存在が、実質的に最重要となっているからである。ミニオンといえば、グルーの手下として献身的に働く、ドジな黄色い集団だが、その愛らしさに第1作から大人気となり、メインのキャラクターであるグルーや、超ド級に愛らしい子どものキャラクター、アグネスを含んだ、主要登場人物をはるかに超えてファンを集めてしまうことになったのだ。関連グッズの多くが、ミニオンばかりであることが、その圧倒的人気を裏付けている。

 そんなミニオンへの飽くなき人気に応え、ミニオンたちが主役のスピンオフ映画が、これまでに2作も作られている。おおもとの『怪盗グルー』シリーズでも、『怪盗グルーのミニオン危機一発』(2013年) 、『怪盗グルーのミニオン大脱走』(2017年)のように、邦題では「ミニオン」を入れることで集客を見込むという戦略を取るまでに、ミニオンが前面に押し出されることになった。とくに日本では、『怪盗グルー』シリーズも全てミニオンが主人公だと思っている人が少なくないほどなのだ。

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