広瀬アリス×大森立嗣が語り合う“芝居と演出” 大事なのは「普通の人間であること」

 大門剛明の同名小説を、映画『MOTHER マザー』や『湖の女たち』などの大森立嗣が脚本・監督を務め、WOWOW連続ドラマWにて映像化した『完全無罪』。21年前に香川県で起こった連続少女誘拐殺人事件で逮捕された男と、その再審請求を担当することになった若手女性弁護士、さらには事件を担当した刑事というさまざまな視点から真相に迫るサスペンスだ。

 本作で、誘拐事件の容疑者で服役中の平山聡史(北村有起哉)の弁護士・松岡千紗を演じるのが広瀬アリスだ。千紗は、若手期待の弁護士でありながら、一方で連続少女誘拐事件の被害者の1人という人物。そんな難役に挑んだ広瀬と、メガホンを取った大森監督が対談。現場での演出意図や撮影時のエピソードなどを語り合ってもらった。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】

俳優の演技に「嘘がないか」を常に見ている

大森立嗣

――大門剛明さんの小説を映像化。大森監督は脚本も担当されていますが、どんな部分を意識して映像化に向けて脚本を紡いでいったのでしょうか?

大森立嗣(以下、大森):小説はサスペンス色が強いんです。僕は普段あまり推理小説を読まないので、逆に素直に楽しめました。そのサスペンスの部分はちゃんと描くことはもちろんなのですが、僕はやっぱり人間ドラマを撮りたいという思いが強いので、登場人物の奥行きもしっかり描いていきたいと意識しました。例えば千紗は、大きな弁護士事務所のホープで、過去の事件のトラウマがあるという部分が強調されますが、一方で実家はすごく庶民的なうどん屋の娘さんで、時々大音量で音楽を聴いていたり……という部分もしっかりと落とし込みたいと思っていました。

広瀬アリス(以下、広瀬):クランクインして最初の1週間で、ほぼ物語のハードな部分を撮影して、その後割と庶民的な一面を撮るというスケジュールだったんです。同じ役なのですが、とても多面的な人間なんだということは意識できました。

――広瀬さんは脚本を読んで、どんな千紗を作り上げていこうと思ったのですか?

広瀬:普通の人間であることです。これまでの作品を観ても、弁護士って法廷に立って、難しい言葉をたくさん使って、完璧な人というイメージが強いと思うんです。でも監督のおっしゃるように、ドーナツを食べながらお蕎麦を踏むなど、弁護士ではないオフ感もしっかり出せるようにというのは意識していました。

――撮影中、大森監督からの演出で印象に残っていることはありましたか?

広瀬:「演技をしないで」と言われたことです。人間って「ヨーイ」って言われると、無意識にアクセルを踏んでしまうような気がするんです。私はそういうタイプの人間なので、自然と力が入ってしまうんです(笑)。そうすると「普通に話している感じで!」と言われるんです。それが最初はどういうことなのか分かりませんでした。でも北村(有起哉)さんと初めてご一緒した日に、演技を見て「あー、力を抜くってこういうことか」と学べた気がしました。

広瀬アリス

――大森監督とご一緒した俳優さんは、演技に対する感覚が大きく変わったと話される方が多いように思います。具体的にどのような演出を心掛けているのですか?

大森:広瀬さんが言ったように「演技をしないで」ということなんですよね。例えば弁護士の役だからって、多くの人が持つ弁護士のイメージにはめ込んで芝居をしなくていいんです。あくまで1人の人間を描きたいので、弁護士だからこういうことをするだろう……というのではなく、そのときの状況、言葉のやり取りでストレートに思ったことを表現してほしいんですよね。

広瀬:監督は、セリフがあっても、その瞬間言いたくなかったら言わなくてもいいっておっしゃっていましたよね。第1話のラストで、北村さん演じる平山と接見するシーンがありましたが、そのとき「いま力入っていたよね」とか「いま芝居したよね」って言われたことを覚えています。北村さんもなかなか接見室に入ってこなかったんです。それって段取りではなく、自分のタイミングで入ってきていいと言われていたんだと思うんです。待っている間、こちらもずっと緊張して、自然と爪を触ったりしていました。でもそういう何かを演じるのではなく、リアルに出たものを監督は求めているのかなと。

広瀬アリス

――大森監督は北村さんと広瀬さんが対峙する場面はどんな演出を?

大森:一言で言うのは難しいのですが、「嘘がないか」というのは常に見ていました。やっぱり感情的なセリフって、どこか芝居がかるというか、盛り上げていこうと力が入ってしまいがちなんです。実は嘘をつかないって簡単なんです。何もしなくていいから。ただ相手のセリフをちゃんと聞いて、心を動かせば、自然なリアクションになるんです。

広瀬:確かに自分を鼓舞して臨むシーンが多かったです。でも「それいらないから」って言われて。最初はやっぱり不安でした。どこかで見せ方を考えてしまっていたんでしょうね。

――視聴者として千紗と対峙している平山は怖かったです。

広瀬:私もずっと不気味でした(笑)。ただ今回は、北村さんや奥田瑛二さん、風間俊介さんとご一緒すると聞いていたので、甘えに甘えようと思っていました。私が頑張って空気を作ることを考えるのではなく、大先輩方に作ってもらおうと(笑)。それでも、北村さんとのシーンは一気に引き込まれるものがありました。

関連記事