ハリウッドデビューの西島秀俊が適役に 『サニー』が提示するAIやロボットの“希望”と“不安”

 動画配信ビジネスの規模拡大によって、各社ともワールドワイドなコンテンツを必要とする現在、日本のカルチャーにも大きな注目が集まっているようだ。『SHOGUN 将軍』、『忍びの家 House of Ninjas』、『TOKYO VICE』、『神の雫/Drops of God』などなど、日本に関連する国際的なドラマ作品が次々にリリースされている。

 そんななか、アメリカ映画界の風雲児といえる製作、配給会社「A24」の製作する、やはり日本を題材としたドラマ作品『サニー』の配信が始まり、現在2話まで視聴が可能な状況だ。

 主演を務めるのは、父親クインシー・ジョーンズの素顔に迫るドキュメンタリー『クインシーのすべて』で監督も務めた、俳優のラシダ・ジョーンズ。同じくアメリカからジョアンナ・ソトムラがキャスティングされたほか、日本が舞台の作品だけあって、日本からは西島秀俊、ジュディ・オング、YOU、國村隼、アニー・ザ・クラムジーなど、多くの魅力的な出演者が揃った。

 本シリーズ『サニー』の中心となっているのは、脚本を務めたケイティ・ロビンスと、監督のルーシー・チェルニアクだ。アイルランド出身の日本在住作家コリン・オサリヴァンによる近未来SF小説『The Dark Manual』を原作にしながら、近未来の京都を中心に、生活に入り込むロボットとAIテクノロジー、日本の企業に隠された秘密、そして、夫を失った一人の女性の心の変遷の物語を描いていく。

 主人公は、夫と幼い息子が飛行機事故で行方不明になり、失意のなかにある、日本在住のアメリカ人女性スージー(ラシダ・ジョーンズ)。夫マサ(西島秀俊)は、「今」がトレードマークの「イマテック」という家電企業で働いていたが、ある日、彼女のもとに、そのマサの同僚を名乗るミステリアスな男性(國村隼)が現れ、マサが開発にかかわっていたという家庭用新型ロボット「サニー」(ジョアンナ・ソトムラ)を、スージーにプレゼントする。

 自分のため特別にプログラミングされたというサニーに違和感をおぼえるスージー。彼女は最初のうちはこのロボットを身辺から遠ざけようとするが、その仕草に夫の思い出を見つけたことで、家族が不在の寂しさもあって、次第に精神的な繋がりを求めるようになっていく……。

 謎めいた存在のサニーだが、視聴者はスージーに対する献身的なケアと愛らしい見た目に好感を持つことだろう。洗練された近未来的な機能美を持ちながら、どこか日本風の“Kawaii(カワイイ)”カルチャーも感じさせるサニーのデザインは、脚本のケイティ・ロビンスによると、こけしなどさまざまな日本の人形を参考にしているらしい。また、頭部のディスプレイに表示される顔の表情のデザインは、日本のクリエイターに依頼したのだという。

 そんなサニーの声を演じているジョアンナ・ソトムラは、俳優の表情を読み取ってリアルタイムでサニーの表情にフィードバックするシステムを搭載したヘッドギアをかぶり、現場で演技をしている。このような複雑なプロセスを減た演技は、ほとんど類を見ないだろう。こういった試みは、ロボットの人間性を強調する意味があると思われる。

 スカーレット・ヨハンソンが人工知能の声を演じた映画『her/世界でひとつの彼女』(2013年)は、人間性を獲得していくAIテクノロジーの可能性と同時に、人間との埋まらない差異を、断絶として描いていた。対して手塚治虫は、『鉄腕アトム』や『火の鳥』シリーズなどで、ロボットの人権や思考を人間と同等のものとして描いていて、差別問題や哲学の問題と接続させていたところがある。本シリーズが、AI、ロボットをどのように描き、テーマにつなげていくのかは、興味深いところだ。

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