小川紗良「かけだしの映画たち」

瀬田なつきが描く愛おしい虚構 初期作『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の爽快感

 もうひとつ、映画に真実味をもたらしているのが街の姿だ。みーくんが屋上から見下ろす街の景色は、目の前に幹線道路、遠くに都会のビル群。ふたり乗りの自転車で駆け抜ける背後には、大型のマンションや団地が立ち並ぶ。いかにも関東近郊のベッドタウンという街並みが、彼らの宙ぶらりんな心模様を際立たせる。瀬田なつき監督は、映画の登場人物たちがいる場所を、俯瞰的にも主観的にもとても印象的に描く。特に本作では、その侘しさが胸に迫る。

 みーくんが、「そういうまーちゃんのズレたところがいいんだよ」と語るシーンがある。そう、瀬田なつき監督作品の少女たちは大抵、ズレている。誘拐犯のまーちゃんなんて、ズレているにも程がある。しかし彼女は、ズレていながらとても堂々としていて軽やかだ。ごはんをつくり、スキップして、好きな人にキスをする。たびたびトラウマに押しつぶされそうになっても、ふたたび立ち上がって鼻歌を歌う。抱えている過去や秘めた思いに由来する「ズレ」と、それでもひょうひょうと生きている(ように見える)軽やかさは、瀬田監督作品の少女たちに共通するところかもしれない。そしてその姿は、この時代・この社会を生きてきた少女や、少女だった人たちにも少なからずつながって、心の重みに浮力を与えてくれる。

 嘘つきなみーくんと、壊れたまーちゃんが行き着く、フィクション盛り盛りのラストが私は大好きだ。屋上からふわりとまちへ降り立ったみーくんは、人混みのなかばったりまーちゃんとすれ違い、呼び止め、駆け寄り、クラクションが鳴り響く交差点の真ん中で、ふたりは愛を誓い合う。青くて唐突で意味不明なのだけど、「映画はこうでなくっちゃ!」という妙な爽快感がある。手をつないで道路を突き進むふたりも、それを祝福するように飛び交う風船も、この先どうなるのかわからない。どこかで引っかかったり、誰かに突っつかれたりして、あっけなく終わるのかもしれない。それでももしかしたら、ふたりなら地球の裏側まで、もしくは宇宙の果てまで飛んでいけるのかもしれない。そんな危うさと高揚感をはらんだ予兆が、その先もずっと、瀬田なつき監督の描く世界で生き続け、じりじりと私の胸を焦がしている。

■配信情報
『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』
U-NEXTほか各種配信サイトにて配信中
監督:瀬田なつき
原作:入間人間
脚本:田中幸子、瀬田なつき
出演:大政絢、染谷将太、三浦誠己、山田キヌヲ、鈴木卓爾ほか
©2011「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」製作委員会

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