『キングダム』1作目で信を“クソザコ”に描いた英断 山﨑賢人の美しい飛び姿に刮目せよ
キャラ的にザコであっても、さすがは主人公、戦闘力は高い。そして、信の強さを主人公補正で、元々天賦の才があったかのように「描かない」点も素晴らしい。信の強さは、漂との1253回に及ぶ実戦稽古によって生まれたものだ。防具などない剝き身で、竹刀などではない殺傷力のある木剣で、いわゆるガチ・スパーを繰り返してきたのだ。コミカルに描かれてはいるが、負けた方は失神するような激しさだ。「100回の練習より1回の本番」という言葉がある。1度も戦場に出たことがないとは言え、1253回の本番を経ているのだ。
信はまだ少年であり、体も大きくない。だが、それを補って余りある跳躍力がある。ハイ・ジャンプからの唐竹割りが得意技だ。漂が彼を指して、「あいつはきっと、誰よりも高く跳ぶ」と評する。比喩的な表現かと思ったら、物理的な意味だった。そのジャンプ自体はワイヤー・アクションによるものだが、山﨑賢人の空中姿勢が美しく、体幹の強さが伺える。近作『ゴールデンカムイ』においても、三角跳びからの攻撃が印象に残っている。古代中国の武人であろうが、日露戦争の軍人であろうが、山﨑賢人はとにかく高く跳ぶ。ハイ・ジャンプがもっとも絵になる俳優だ。
『ゴールデンカムイ』山﨑賢人の“原作通りではない肉体”はなぜリアル? 武道家が解説
「“不死身の杉元”役は山﨑賢人に決定!」との報を受けた時、「また山﨑賢人……?」と思った人は、怒らないから手を挙げなさい。 …
反乱軍の殺し屋・左慈(坂口拓)に、「(下僕が)夢見てんじゃねーよ」となじられた際の、信のセリフが印象深い。
「夢を見て何が悪い。夢があるから立ち上がれるんだろうが。夢があるから前に進める。夢があるから強くなれるんだろうが」
普通に聞くと、ただのクサいセリフだ。だが、最底辺から将軍への成り上がりという、身のほど知らずの夢を見るザコが吐くからこそ、このセリフには意味がある。信は、夢を見て、夢を喰い、夢を栄養として生きてきた。この第1作において、信は自らの夢に向かっての第一歩を踏み出す。「天下の大将軍」になるまでには、あと何万歩歩かねばならないのか。普通の人間なら心が折れそうなぐらい遠い道のりだが、筋金入りの身のほど知らずである信なら、笑顔で歩くのだろう。
いや、信なら走るか。山﨑賢人は、跳躍姿勢だけではなく、走る姿も美しい。そして、映像で観ても恐ろしく足が速いことが伝わる。この第1作を観たからには、視聴者も最後まで併走しなければならない。だが、一般人がいきなり彼と同じスピードで走り出した場合、肉離れ、膝靭帯損傷、アキレス腱断裂などの憂き目に合うかもしれない。観る前に、入念なウォーミング・アップが必要だ。
■放送情報
『キングダム』
日本テレビ系にて、6月28日(金)21:00~23:09放送 ※放送枠15分拡大
原作:原泰久『キングダム』(集英社『週刊ヤングジャンプ』連載)
監督:佐藤信介
脚本:黒岩勉、佐藤信介、原泰久
主題歌:ONE OK ROCK「Wasted Nights」
出演:山﨑賢人、吉沢亮、長澤まさみ、橋本環奈、本郷奏多、満島真之介、阿部進之介、深水元基、六平直政、髙嶋政宏、要潤、橋本じゅん、坂口拓、宇梶剛士、加藤雅也、石橋蓮司、大沢たかお
©原泰久/集英社 ©2019映画「キングダム」製作委員会