『虎に翼』花江「生きてるうちにお別れできる」の説得力 おかしみと愛に満ちた直言の最期

 『虎に翼』(NHK総合)第43話で、直言(岡部たかし)は栄養失調と肺炎でもう長くはないと診断された。しかし、大事なことを隠していた直言に対し、寅子(伊藤沙莉)の心中は複雑だ。

 直言が半年近くも隠し持っていたものは優三(仲野太賀)の死亡告知書だった。オープニングの直前、寅子の手作りのお守りを力を込めて手にした後、寅子に笑いかける優三が映し出される。心優しく、寅子の心の支えとなった優三のほほえみがしっかりと視聴者の胸に刻まれた。

 伊藤の表情からは、優三の死を知らされなかった寅子の喪失感が感じられる。しかし伊藤沙莉の演技の魅力はそれだけではない。大事なことを隠していた父への憤りや、それでも病床に伏した父を前にすると感情をぶつけられないやるせなさといった複雑な心境も感じられる。だが、寅子は自分のあらゆる感情にフタをする。淡々と家事や仕事に戻ろうとする台詞の言い回しには、やり場のない怒りや優三の死と向き合えない寅子の苦しみが滲み出ている。

 そんな中、直言らしい別れが描かれたことに驚かされた。

 まず印象に残ったのは、直言らしい別れのために家族をつなげた花江(森田望智)の存在だ。ある日、直言は寝室に家族を呼ぶも、はじめは寅子に優三の話をすることができない。真実を何も語らない父の元から立ち去ろうとする寅子を引き止めたのは花江だった。花江は「お義父さん、今する話、それじゃないです」と怒り、寅子には「優しくする必要なんてない。怒ってもいい、罵倒してもいい。トラちゃんはきちんと伝えるべきよ」と訴えた。続く花江の言葉が胸を打つ。

「お義父さんとは、生きてるうちにお別れできるんだから」

 戦争は予告なしに今生の別れをもたらす。“生きてるうちにお別れできる”のだから、罵倒でもいいから自分の気持ちを伝えるべきだと話す花江もまた、直道(上川周作)との別れを経験している。花江らしい柔らかな声色ながらも芯のある言葉に感じ入るものがあった。

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