映画史に残るコッポラとルーカスのハグも 第77回カンヌ国際映画祭、3つのトピックを解説

 ショーン・ベイカーが手がけた『Anora(原題)』が最高賞のパルムドールに輝いて終幕を迎えた第77回カンヌ国際映画祭。2010年代以降は『愛、アムール』や『パラサイト 半地下の家族』、近年の『逆転のトライアングル』や『落下の解剖学』のように、外国映画と翌年のアカデミー賞とを結びつける役割を担ってきたカンヌ。アメリカ映画がパルムドールに輝くのはテレンス・マリックの『ツリー・オブ・ライフ』以来13年ぶりのこととなる。

ショーン・ベイカーが最高賞のパルムドールに

(左から)ジョージ・ルーカス、ショーン・ベイカー 写真=REX/アフロ 

 この『Anora』はニューヨークのブライトン・ビーチで生まれ育ったストリッパーの女性が、お客として出会ったロシアの有力者の息子と恋に落ちて結婚。ところが彼の両親が猛反発してニューヨークにやってくるというコメディ作品として紹介されており、それ以上の情報がまだかなり少ない。IMDbによれば35mmフィルムで撮影されているとのことなので、ベイカーの近作(『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』は35mm、『レッド・ロケット』が16mm)と同様、“絵葉書”のようなルックを楽しめる作品にはなっているに違いない。

 今年のコンペ22作品の顔ぶれは、相変わらず豪華であった。ジャック・オディアールやジャ・ジャンクー、ミシェル・アザナヴィシウス、パオロ・ソレンティーノ、ヨルゴス・ランティモス、デヴィッド・クローネンバーグといった常連に、他の三大映画祭で実績のあるミゲル・ゴメスとモハマド・ラスロフ。近年の三大映画祭で活躍が顕著な女性監督はアンドレア・アーノルドを筆頭に4人と少なめだが、グレタ・ガーウィグがアメリカの女性監督として初めて審査員長に就任。そしてなんといっても、今年はフランシス・フォード・コッポラの新作がコンペ入りを果たしたことが何よりのトピックであろう。

映画史的に極めて重要なコッポラとルーカスのハグ

(左から)ジョージ・ルーカス、フランシス・フォード・コッポラ 写真=REX/アフロ 

 コッポラが40年以上前から構想を重ね、自分のワイナリーを一部売却して巨額の制作費を捻出。結局予算は膨れ上がり、1億2000万ドルを費やした壮大な自主映画ともいわれている『Megalopolis(原題)』。コッポラのカンヌコンペ入りは『地獄の黙示録』以来45年ぶりであり、すでに2度パルムドールを受賞しているとはいえ“常連”と呼ぶにはブランクが大きすぎる。噂によれば上映中に突然会場にマイクスタンドを持った人物が登場し、スクリーン内の人物に語りかけるという演出もあったとかで、その奇怪さがなかなか北米配給が決まらない一因なのだろう。てっきりいつぞやのゴダールのように“特別パルムドール”が贈られるのかと思ったが、残念ながらそうはならなかったようだ。

 賛否両論というよくあるかたちで話題をさらったコッポラだが、彼の今年のカンヌでの役割はそれだけではない。名誉パルムドールを受賞したジョージ・ルーカスにトロフィーを進呈するため、授賞式に登場。ルーカスのデビュー作となった『THX-1138』で製作総指揮を務めたコッポラは、続く『アメリカン・グラフィティ』でも製作を担当。その後ルーカスは『スター・ウォーズ』を手がけるにあたり、コッポラの介入を避けようと『地獄の黙示録』の映画化権を譲ったというのは有名な話である。だからといって訣別したというわけでもなく、『キャプテンEO』や『タッカー』でタッグを組んできた盟友2人。彼らが共に80代に突入したいま、こうして大舞台で顔を揃えてハグをする。それは映画史的に極めて重要なモーメントである。

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