『マッドマックス:フュリオサ』はひたすらに“エピック”! 人生を描くアクションに震える

『フュリオサ』人生を描くアクションに震える

アニャ・テイラー=ジョイとクリス・ヘムズワースに脱帽

 作品の持つ感情を最大限に引き出した功労者は他でもない、メインキャストの2人だ。アニャ・テイラー=ジョイが演じるフュリオサは、『怒りのデス・ロード』で垣間見えた穏やかさと包容力、冷静さが形成される前の彼女。より生々しい復讐心を抱いており、激しく、鋭い眼光を放っている。しかし、仲間は絶対に見捨てない。「緑の地」から荒地に連れ出された彼女が、周囲の狂気に飲み込まれまいと強靭になっていく様子を、子役として幼少期を演じたブラウニーは見事に体現した。そして彼女にフュリオサのキャラクター像を説きつつ、シームレスにバトンを受け取ったテイラー=ジョイの「ただ出演するのではなく、ミラー監督とともに作品を作り上げる」という精神も映画の節々から伝わってくる。

 そんな彼女とともに撮影を走り切ったのは、マーベル映画への出演でもよく知られるヘムズワースだ。圧倒的な筋力と甘いマスク、そして世界中で愛される人気フランチャイズで演じる“ヒーロー”のイメージが強い彼は、他の作品でもちょっと気が抜けた優男を演じがち。しかし、本作で演じるのは特殊メイクで義鼻をつけ、口髭を伸ばしたサイコパスという、普段のイメージと真逆のキャラクターである。とはいえ、ヘムズワースは以前も『ホテル・エルロワイヤル』(2018年)でサイコパスな役を見事に演じ切っており、これが初めてというわけではない。

 彼が演じるディメンタスは、サディスティックだがユーモアのあるキャラクターだ。一見話が通じそうだが、実際にはその辺の暴走族よりも冷血で非道。所有欲や独占欲が強く、イモータン・ジョーのような落ち着きがないため悪党としては小物感を感じさせる時もある。しかし、基本的に狂っていて極端な性格ゆえにハラハラさせられる。バカなのかと思いきや、相手の心根を奥底まで見透かすようなずるがしこさを持っていたり、嫌な奴と素直に割り切れたらいいものの常に体に大事なテディベアを身につけていて、何だか憎みきれなかったり。その多面性が作品のヴィランとして魅力的で、私たちもフュリオサとともにこの男に振り回されることになる。つまり、最高のキャラクターなのだ。そしてそれを演じ切ったヘムズワースと彼のキャリアにとって、間違いなく最重要な役となるだろう。

紡がれる精神とディテールを見逃すな

 本作は『怒りのデス・ロード』にとどまらず、シリーズ1作目の『マッドマックス』から続く精神が共有されている。それは“自由への渇望”と“復讐”だ。前者は『怒りのデス・ロード』でワイブスやフュリオサ、そして囚われたマックスらが体現した「自分は誰のものにもならない」という反骨心であり、後者は『マッドマックス』のラストでも強烈に描かれた「復讐しても愛する者が帰ってこない悲しみと虚しさ(それゆえに誰かを失う事の重大さは計り知れないこと)」を意味している。そういった点で、『フュリオサ』はシリーズの始まりに立ち返る、輪が一周回って完成するようなテーマが実直に描かれているのだ。

 そして相変わらずディテールの作り込みがすごいので、細部にまで目を向ければ向けるほど新しい発見が楽しめる。特にフュリオサを語る上で欠かせない“髪の毛”が、本作では随所でかなり強いメタファーとして効果を発揮しているので注目していただきたい。作品とフュリオサが持つ感情、そして壮大な映像表現がなだれこむ圧倒的な映画体験。本作を観ずして、2024年の映画体験は語れないといっても過言ではないくらいだ。もっと細かく具体的に、それぞれのシーンやキャラクター同士の関係性を綴れないのが残念なくらい、鑑賞後に語りたいことが山ほどできる作品だと思う。前作に引き続き、凄すぎて名状し難いこともたくさんある。ただ、一つハッキリと言えることがあるとすれば、それは本作を鑑賞した後に観直す『怒りのデス・ロード』は、また格別な味わいになるということ。

 多くの映画撮影の現場では、監督の「よーい、アクション!」で撮影が始まる。しかし『フュリオサ』の現場は、「Start your engine!(エンジンを入れろ!)」という掛け声、そして現場や自身の内側に鳴り響く轟音が準備の合図だったとジョイとヘムズワースは語る。(※)ぜひ、あなたも心のエンジンを吹かせながら(特にIMAXなどの!)大きなスクリーンで、再びあの荒地を訪れてほしい。

映画『マッドマックス:フュリオサ』ファイナル予告 2024年5月31日(金)公開

参照
※ https://www.youtube.com/watch?v=WzNlp_qX2RQ

■公開情報
『マッドマックス:フュリオサ』
5月31日(金)全国ロードショー 日本語同時上映
日本語吹替版/IMAX®/4D/Dolby Cinema®(ドルビーシネマ)/ScreenX
監督:ジョージ・ミラー
出演:アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation.
Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories.
公式サイト:MADMAX-FURIOSA.jp

■リリース情報
【初回限定生産】『マッドマックス 怒りのデス・ロード』コレクターズ・エディション <4K ULTRA HD&ブルーレイセット>(3枚組/豪華封入特典付)
5月24日(金)発売
価格:8,580円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
©2015 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

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