『虎に翼』や『光る君へ』が描く“地獄”を歩む女性たち 社会を切り取るNHKドラマの真髄

 それぞれの人生における重大な選択をおこなった4人の女性に共通するのは彼女たちの選択が“一見、強要などされていないこと”である。「妻にはできないが妾(しょう)として愛する」と道長に告げられたまひろ、先輩・久保田(小林涼子)が法廷に立つ姿を見て、既婚者になれば社会的地位を得られると信じ元書生の優三(仲野太賀)と籍を入れた寅子、「これは人助けでもある尊い行為」とコーディネーターにポジティブな言葉を囁かれ、代理母の報酬で今の生活から抜け出そうとするリキ、「どうするかは悠子が決めてくれていい」と夫・基から決断のボールを渡される悠子。

 4人とも本当に望んでいるものとは異なる道を提示され、どうにもならない状況下での決断を迫られ選択をする。これは“自らが選んだ”“自分で望んだこと”との十字架を背負ってその後の人生を歩まざるをえない地獄だ。

『燕は戻ってこない』写真提供=NHK

 その地獄の中でまひろはのちに道長の子・彰子に仕え紫式部として後世に残る物語を紡ぎ、寅子はさまざまな困難や女性差別に直面しながら法曹界で戦っていく。ではリキと悠子はどうなるのか。平安や昭和から時計は進み、今は一見誰もが自由に夢を掴んで未来を選び取れる時代になったようにも見えるが果たしてそうだろうか。見えない壁はそこらじゅうにあるのではないか。

 『光る君へ』のまひろ、『虎に翼』の寅子、そして『燕は戻ってこない』のリキと悠子。主人公に「この手を掴むかやめるか」と真綿で首を締めるような選択を促すのはいつも力を持つ者たちだ。時代が移っても変わらないこの構図に絶望しそうになりながら、これまでも気概がある作品を多く手がけ、おそらく自らもさまざまな地獄を渡ってきたであろう大石静氏、吉田恵里香氏、長田育恵氏の3人の脚本家が社会を映すエンターテインメントであるドラマの中で4人の登場人物たちにどんな未来を託すのか、その地獄の行きつく先をみつめていきたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

ドラマ10『燕は戻ってこない』(全10回)
NHK総合、BSP4Kにて放送
総合:毎週火曜22:00~22:45放送、毎週木曜24:35~25:20再放送
BSP4K:毎週火曜18:15~19:00放送
出演:石橋静河、稲垣吾郎、内田有紀、黒木瞳、森崎ウィン、伊藤万理華、朴璐美、富田靖子、戸次重幸ほか
原作:桐野夏生
脚本:長田育恵
音楽:Evan Call
制作統括:清水拓哉、磯智明
プロデューサー:板垣麻衣子、大越大士
演出:田中健二、山戸結希、北野隆
写真提供=NHK

『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK

関連記事