森田想がクリームソーダから拳銃が似合う俳優へ 小路紘史監督『辰巳』に打ちのめされた
本作の主人公・辰巳、そして彼と行動を共にするようになっていく葵は、反発しあいながらも互いの足りない部分を埋めるように少しずつ変化していきます。裏稼業の世界で生きる2人は、言葉も悪ければ態度も悪い。特に葵は出会う人出会う人に唾(&ガム)を吐きかける完全にヤバいやつです。
辰巳と葵以外にもヤバい奴らが盛りだくさんな映画だけに、一歩間違えれば漫画的な過剰さが出て完全なファンタジーになるはずなのに、そうはならず“リアル”に見えてしまうのが小路監督の恐るべきところ。前作に続きの覚醒剤で惚けるシーンをはじめ(相変わらず藤原季節がうますぎる)、痛いし、恐いシーンが続きまくります。だからこそ、終盤に向かって確実に近づいていく“終わり”の瞬間がたまらないです。「もうやめてあげて」と何度思ったかわかりません。
そんなヤバい世界を作り上げたキャスト陣には称賛しかないです。特に、主役の2人である遠藤雄弥と森田想の両名は、年末の映画賞で主演賞獲ってほしい凄まじさ。遠藤雄弥は現在放送中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』でも、元妻から訴えられるDV男として畜生ぶりを発揮していました。
そしてとにかく驚いたのが森田想です。彼女が上手な役者だなと思ったのは、枝優花監督『放課後ソーダ日和』でした。あのときはクリームソーダにときめく女子高生が、わずか数年でこんなに銃と暴力が似合う役者になるとは……。今後もノワール作品の女性キャラには森田想が欠かせない存在になる気がしています。
小路監督もマイフェイバリットに挙げているマーティン・スコセッシ作品などが好きな方はもちろん、原作ものに少し疲れてきた人、映画を観て打ちのめされたい人には『辰巳』は絶対オススメです。『ケンとカズ』未見の方はセットで観ましょう。小路監督、次回作はもっと短い期間で観たいです!
■公開情報
『辰巳』
4月20日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
監督・脚本:小路紘史
出演:遠藤雄弥、森田想、後藤剛範、佐藤五郎、倉本朋幸、松本亮、渡部龍平、龜田七海、足立智充、藤原季節
配給:インターフィルム
©小路紘史
2023年/日本/カラー/シネスコ/108分/5.1ch/R15+
公式サイト:https://tatsumi-movie-2024.com/