坂本真綾、『黒執事』の16年を経たいま声優業に思うこと 「最後に残るのは人の内面」

外国作品の吹き替えとアニメの声優の違い

ーー『黒執事』のアニメシリーズは、2008年スタートということですが、今改めて振り返ると『黒執事』と出会った2008年ごろの坂本さんは、どのような心境でお仕事をされている時期でしたか?

坂本:昔から声優としてはいろいろやってはいましたけど、海外映画の吹き替えなどが多かったので、アニメは何度やっても、なかなか不慣れな感覚が自分の中にありました。特に自分とかけ離れたキャラクターを演じることになると、より想像力が求められるじゃないですか。原作があって、そのイメージを大事にするのはもちろんですけど、セリフの言い回しは演じる人に任される部分があるので、自分はなかなか表現のバリエーションが出てこなくて「私は想像力が貧困だな」って反省したりしていました。そんな時に、シエルというまた自分とは全然違う男の子の役をいただいたんです。「やりがいがありそう」「面白そう」って思う自分と、「これでいいのかな」「原作のイメージに合ってるかな」っていう不安がもうずっとせめぎ合っていて。そうしているうちに収録はあっという間に終わってしまったという感じで、とにかく必死でしたね。

ーー外国作品の吹き替えとアニメの声優の違いは何でしょうか?

坂本:人それぞれだと思うんですけど、どちらを先に始めたかによるみたいで。アニメを多くやってた人は、「吹き替えが難しい」とおっしゃいますし。単純に慣れの話だと思うんですけど、私の感覚では、やっぱり外国映画は生身の人間が演じているということで、表情も細かく見ることができるのと、一度その人が演じているものをある程度トレースするイメージ。向こうの人が大きい声で言っていればこっちも大きい声で言うし、BGMやSEなども入った状態の映像を見ながら演じるので、ヒントがいっぱいあるんです。そこから大きく離れた演技はできないので、その人の演技に合わせます。

ーーなるほど。

坂本:でもアニメは、そういうお芝居のベーシックになっているものが台本の文字でしかないので、どんな声でどんな表現をするかはある程度キャストに委ねられてるんです。だから、例えば相手を威圧するセリフがあったとして、大きい声で言う場合もあるだろうし、小さい声でボソッと言った方が効果的な場合もあるわけです。画を見て「どっちかな」と想像する。求められる想像力は、アニメの方が多いかもしれません。まだ制作途中の未完成の映像を見ながらアフレコをするので、これは夜なのか昼なのか。どのくらい距離があるのか。どんなBGMやSEが入ってくるのか。本当にいろんなことを想像して、考えないといけないんです。

ーーアニメ、吹き替え、舞台と幅広く活躍されていますが、それぞれで発声などの違いはありますか?

坂本:その人物の人生を疑似的に生きるという意味では、吹き替えだろうがアニメだろうが舞台だろうが、やることは同じです。その上で、全身表現と声だと違う部分もあるのですが、ざっくり言うと使ってる場所が違う気がします。ちょっとずつ微妙に使ってる筋肉が違うけど、基本的には同じ競技のイメージです。

坂本真綾が考える、声優として活躍するために必要なもの

ーー『黒執事』のように、共演者と10年以上の付き合いになる作品があるのも役者の仕事ならではかと思います。声優としてのキャリアの中で、人付き合いで大切にしていることは何でしょうか?

坂本:15年前、私はあまりに余裕がなくて、現場でもお喋りとか全然できなかったんですよ。他のみんなが仲良く喋ってても、私は自分に自信がなくていつも不安で、お喋りする余裕がありませんでした。でも今は、仕事の休憩時間に取るコミュニケーションが実は大事だと思うこともあって。作品を作る上で、昔の私にはちょっとそれが足りてなかったと思います。今では年齢もあって、現場で一番年上とか上の方になってくることも増えてきて、自分が場を和ませられるなら、そうした方がいいなって思う場面も出てきたりして。みんなと積極的にコミュニケーションを取るようになったことは、変わったなと思います。

ーー長く続く『黒執事』という作品に携わる中で、ご自身の中で変化した部分はありますか?

坂本:28歳と43歳では、あらゆることが全然違いますよね。体感的にはそんなに年月がたったって気がしない。でもその年月の間にやっぱりいろんな仕事をして、いろんな人と出会ってきた全てが血肉になって、今の仕事にまたフィードバックできることが増えたという感覚はあって。それはこの間小野さんも同じようなことをおっしゃってて。「今のほうが、お互い楽しむ余裕ができたよね」「もう一回テレビシリーズができるなんてご褒美みたいだね」と。昔よりもできることも増えましたし。今だからできることをさせてもらっているなと思います。

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ーー声優で仕事を得て活躍するためには何が必要だと思いますか?

坂本:今の若い声優さんは、みなさん最初から何でも器用にやられて、歌って踊れて……なんでもできますよね。私たちが若い時とは全然違う(笑)。最近は作品もたくさんあるし、海外の人も含めてアニメを観てくれる人の数も多い。だからこそ声優ってやりがいのある仕事というか、本当にクリエイティブな世界に誇れる楽しい仕事だと思います。でも根本的に、ある人の人生を、仮に一時でも生きるっていうのは、どんな脚本でも、どんな役でも、そんなに軽率なことではないと思うんです。自分自身の人生の経験とか、自分自身の思考してきたことが、どうしてもにじみ出てしまうものだと思うので。演技の勉強とか、声の出し方とか、そういうこと以上に、声優さん一人ひとりの人生の彩りをたくさん持つことが求められるのかもしれないですね。

ーー演技をする上で、演者の内面にあるものは隠せないということですね。

坂本:そうですね。いろんな経験をして、いろんな人と出会って、いろんな感情を蓄えておく。それに尽きると思います。上手い下手とかいい声とか……かわいいとかカッコいいとか、そういうことではなくて。結局最後に残るのはその人の内面なのかなって。長くこの先活躍する場が、土壌としてはずっとあり続けると思うんですよ。長くやりたいのであれば、いろんな世界を知っていくってことは大事なのかもしれません。

ーー人によっては「演じたいけど歌は苦手」など、「これは苦手かも?」というものに直面することもあると思うのですが、そんな時に坂本さんはどう向き合っていますか?

坂本:苦手なこともきっと、必死に取り組むうちに最終的には成長を遂げる可能性もあるはず。でも嫌なことを無理にやる必要はないと思います。そのあたりは、その人のジャッジで選び取っていくことだと思いますけど。どんな人生を送りたいかは自分にしかわからない。だったら、「人から求められる」とか、「こうでなきゃいけない」とかっていう考えはなるべく置いといて、自分がやりたいことに集中するのが、その人が幸せになる方法だと思います。声優に限らず、それはどんな仕事でも言えるかもしれませんね。

■放送情報
『黒執事 -寄宿学校編-』
TOKYO MX、BS11、群馬テレビ、とちぎテレビにて、毎週土曜23:30〜放送
MBSにて、毎週土曜27:38〜放送
ABEMAにて地上波同時放送
そのほか各配信サイトにて順次配信
原作:枢やな(月刊『Gファンタジー』スクウェア・エニックス刊)
監督:岡田堅二朗
シリーズ構成:吉野弘幸
キャラクターデザイン:清水祐実
サブキャラクターデザイン:髙田晃
総作画監督:清水祐実、髙田晃、清水裕輔、猪口美緒
色彩設計:横田明日香
美術設定:伊良波理沙(KUSANAGI)
美術監督:根本邦明(KUSANAGI)
テクニカルディレクター:佐久間悠也
撮影監督:金森つばさ
CG監督:宮地克明
編集:小口理菜
音楽:川﨑龍
音響監督:明田川仁
制作:CloverWorks
キャスト:小野大輔(セバスチャン・ミカエリス)、坂本真綾(シエル・ファントムハイヴ)、渡部俊樹(エドガー・レドモンド)、榎木淳弥(ロレンス・ブルーアー)、武内駿輔(ハーマン・グリーンヒル)、橘龍丸(グレゴリー・バイオレット)
©Yana Toboso/SQUARE ENIX,Project Black Butler
公式サイト:https://www.kuroshitsuji.tv/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/kuroshitsuji_pr

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