『光る君へ』ファーストサマーウイカの佇まいが面白い “推し”と出会った“清少納言”誕生

 “推し”とまではいかないかもしれないが、まひろもまた藤原寧子(財前直見)との思いもよらない出会いに胸を高鳴らせる。誦経中、まひろとさわがひそひそ話すのを叱ったのが寧子だった。 『蜻蛉日記』を愛読していたまひろは寧子との出会いを大いに喜ぶ。ききょうと違って喜びの表現は控えめだが、まひろ演じる吉高の普段よりやや早口な台詞の言い回しからまひろの興奮が伝わる。母を迎えに来た道綱(上地雄輔)に対して、まひろは「日記に出てきた道綱様にもお会いできるなんて、来た甲斐がありました」と嬉しそうな顔を浮かべた。まひろが喜ぶ様子は愛らしく、道綱がまひろに惹かれてしまうのも納得だった。

 まひろが感激する姿も心に響くが、寧子演じる財前の演技にも心打たれる。本作で財前が見せる表情はどれもチャーミングだ。寧子はまひろとさわに対して、はじめこそキッと厳しい顔を見せるが、2人が反省するのを見るとにこりと笑いかける。その笑顔は、今は亡き兼家(段田安則)が寧子には甘えてしまうのも納得できるほど、穏やかであたたかい。寧子といえば、兼家の前でことあるごとに「道綱、道綱」と息子の名前を呟くコミカルな場面が印象的だが、まひろと言葉を交わす場面では愛情深い人物像が際立つ。寧子はまひろとの会話の中で、まひろの恋の痛みを悟ったかのように「心と体は裏腹でございますから」と優しい声色で語った。続く言葉もまた、まひろの心に強く響く。

「それでも、殿との日々が私の一生の全てでございました」
「あの方との日々を日記に書き記し、公にすることで妾の痛みを癒したのでございます」

 寧子の言葉には妾としての悲しみも感じられる。だが、財前は気品ある佇まいとやわらかな表情、兼家との関係に一切悔いを感じさせない台詞の言い回しを通じて、寧子の兼家に対する深い愛を表現していた。

 道長への思いを心に秘めて過ごすまひろにとって、『蜻蛉日記』の切なさは胸にしみるものがあった。まひろは月を眺めながら、作者である寧子の言葉を思い返す。

「書くことで、己の悲しみを救った」

 まひろもまた、自身の悲しみを書くことで救うのかもしれない。

■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK

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