『変な家』のヒットにみる“ホラー映画”としての潮流と現代性 賛否両論の意義を考える
個の奇人や幽霊よりも、分かり合えない人間の集団に対する怖さ
例えばJホラー黎明期だった80年代後半から平成初期にかけてカテゴリとして多い印象があるのは、『リング』を筆頭とする幽霊ものや『学校の怪談』などの怪談・怪奇もの、そして『本当にあった怖い話』や『ほんとにあった!呪いのビデオ』などの実録ものである。つまり恐怖の対象は何者かに殺害された死者の怨恨や、都市伝説など実態の掴めないものが多く、特に猟奇的な殺人事件が増えた平成初期の世相が反映され、『呪怨』のような幽霊系でも徐々にえぐいものが増えた。
その次に流行ったのが、怨霊そのものではなくそれを生み出した人間……つまり殺人鬼やサイコパスを恐怖対象とした「ヒトこわ」である。もちろんここにも、世間を震撼させた猟奇殺人やストーカーなどの事件の存在が反映されていると感じる。自分とは全く違う倫理観をもつ、ヤバい人間……その“分かり合えなさ”に対する恐怖が、ホラー作品の中で大きな存在感を発揮していた。しかし、当時の作品で特徴的だったのは恐れる対象が“個人”だったこと。中でも流行った印象だった『トリハダ〜夜ふかしのあなたにゾクッとする話を』(フジテレビ系)などをとっても、隣人だったり1人のサイコパスだったり、そこに描かれていたのは“個”なのだ。相手の背景は何もわからない。画面の中で描かれるのは怯える主人公の様子ばかりで、恐怖対象がどんな人間なのか、何を考えているか一切わからないように演出されていた。それは“わからない方が怖かった”からだ。
しかし、今の時代はどうだろう。SNSネイティブ世代が増えた現代、彼らに限らず我々みんなが「あの頃は何を考えているのかわからなかった怖い人」の実態を、SNSを通して得やすくなっている。X(旧Twitter)などで相手がある程度どんな人間かわかるのだ。普段どんな思考を抱いているかに限らず、好きな食べ物や趣味まで見えてくる。自分と同じように普通に生活している。それでも、一切理解できない人たちがいること。そして以前は“個”だった彼らが、お互いをSNS上で見つけ合い、集団化すること。この映画に出てくるように、自分にとってあり得ない価値観を持っている人がいても、彼らは互いに同じ価値観を共有していて、支え合っている。その集団化によって“分かり合えなさ”に対する恐怖に拍車がかかるのだ。彼らが共同体となり、自分自身が異物になることへの恐怖や誰かが課した理不尽なルール(しきたり)への抵抗感が「村ホラー」というジャンルに顕現している。この時代とともに移り変わる恐怖の正体を実はしっかり押さえている点で、『変な家』は、単なる恐怖演出の玉手箱に止まらない、現代的なホラー映画としてヒットしているのではないだろうか。
とはいえ、特にクライマックスでは一番緊迫感があるはずのシーンで間延びしたやり取りを見せられたり、主人公が意味のわからないことを言い出したりするなど、やはり映画として手放しに褒めることが難しい作品ではある。特に間宮祥太朗は良い演技をする俳優ではあるが、雨男というキャラクターの輪郭が本作ではぼんやりしていて、初対面の柚希をいきなり家にあげたり(原作ではちゃんと警戒してカフェで会うなど整合性が取れているのになぜ変えたのか)、スタンスがうまく描かれなかったりするせいで、映画を観終わったあとでも「この人どういうキャラなの?」という疑問が残り続けてしまうのはもったいないと感じた。
しかし川栄李奈は相変わらず良い演技をするし……と、やはり良いところも悪いところもあるのだ。ただ、その二面的な感想を若年層のオーディエンスが積極的に話していること自体に私は価値を感じている。「評価点数が悪いからお金を出すのももったいないし、観ない」と遮断することだってできるものを、怖いもの見たさではありつつみんなチケット料金を払って自分の目で確かめているから。そこで生まれる議論に、今後の日本映画の未来はあるだろう。だからこそ、賛否両論の国内作品が4週連続1位という結果に注目すべきなのだ。
■公開情報
『変な家』
全国公開中
出演:間宮祥太朗、佐藤二朗、川栄李奈、長田成哉、DJ 松永(Creepy Nuts)、瀧本美織、根岸季衣、髙嶋政伸、斉藤由貴、石坂浩二
原作:雨穴『変な家』(飛鳥新社)
監督:石川淳一
脚本:丑尾健太郎
制作プロダクション:TOHOスタジオ、共同テレビジョン
配給:東宝
©︎2024「変な家」製作委員会
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