『虎に翼』の核となる尾野真千子の“語り” 伊藤沙莉の演技をさらに際立たせる秀逸な声色

 面白いのは、ここでのナレーションがあくまで現代の表現で語られているということ。言葉の数々は寅子の心の声でありながら、我々視聴者の心の声でもあるかのようだ。寅子と視聴者の感情が程よく溶け合う境界線の曖昧な存在は、強い共感性を持たせつつ作品を盛り上げている。また、「女性は無能力者?」という尾野のナレーションの場面では同時に縦書きの〈無能力者?〉というテロップが入ることで、幾分のユーモアとチクリとした痛みが視聴者の胸に届けられた。

 他にも第4話で花江(森田望智)と直道(上川周作)の結婚式がとり行われた際に、寅子は母親のはる(石田ゆり子)から結婚をごり押しされた後に、半ば強引に歌を歌わされるはめになる。「うちのパパとうちのママと~♪」と歌う姿に「何で女だけニコニコ、こんな周りの顔色うかがって生きなきゃいけないんだ? 何でこんなに面倒なんだ? 何でみんなスンッとしてるんだ!? 何でなんだ!?」と重なるナレーションの秀逸さは、寅子が感じる理不尽のすべてを代弁するかのよう。このときの、怒りと笑顔の同居した泣き笑いのような寅子の表情に思わず胸を締め付けられた。

 こうした独特の演出は、ナレーションの面白さと合わせて『虎に翼』の核ともいえる部分を端的に印象づけることに成功している。尾野のナレーションは、伊藤の素晴らしい演技や顔芸の数々とマッチしていることや、テロップのユニークさとの相性も良く、本作がいかに細部までこだわって作品を作っているのかが伺えた。

 早くも期待が集まる『虎に翼』。寅子の活躍はもちろん、この後の尾野のユニークなナレーションにも注目しながら見守りたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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