『ザ・ファブル』佐藤明役・興津和幸に聞く“プロの定義” 「成長する志を持った人がプロ」

 「ファブル」というあだ名が付けられたプロの殺し屋が「1年間誰も殺さずに一般人として生きる」という命令に従い、奮闘する姿を描いた南勝久による漫画『ザ・ファブル』。2023年12月に完結を迎えた原作漫画は、累計発行部数2200万部を突破、2019年と2021年には岡田准一主演で実写映画化もされた。

 そして、ついにTVアニメ化もされ、4月6日より連続2クールで放送される。監督を務めたのは、『装甲騎兵ボトムズ』『沈黙の艦隊』『火の鳥』など数々のアニメを手がけてきた髙橋良輔で、アニメ版『ザ・ファブル』には大きな期待が寄せられている。

 リアルサウンド映画部では、本作の主人公・佐藤明役を務めた興津和幸にインタビュー。佐藤明は一般的な主人公像からはかけ離れた存在であり、声だけですべてを表現するのは難しかったはず。演じるにあたって工夫したことや、「プロ」にこだわる佐藤にちなんで興津が思う「プロ」について話を聞いた。

「違和感が面白い」『ザ・ファブル』の魅力

ーー漫画の『ザ・ファブル』とはどのように出会いましたか?

興津和幸(以下、興津): 『ザ・ファブル』は殺し屋のちょっと怖い系の漫画だろうと思って敬遠してたんですけど、信頼している友人から「絶対面白いから読んだ方がいいよ」と再三勧められまして(笑)。ちょうど第1部が完結したタイミングだったので、まとめ買いしました。 読み始めたら、生々しい描写が多くて「怖いな」とは思ってたんですけど、その中にも漫画ならではの“違和感”がちゃんとあって。その塩梅が絶妙で、読み始めたら止まらなくなって、一晩で全巻読んじゃいましたね。

ーー佐藤明をどのような人物だと感じましたか?

興津:よく分からない人だなと思いました。 謎が多いですし、殺し屋という特殊な仕事をしている人なので、考え方が一般の人間とはズレてるんですよね。でも、その違和感が面白いなと思いました。ズレてる人間ではあるんだけど、殺しの世界ではプロフェッショナルで、寓話を意味する「ファブル」と呼ばれる伝説級の存在。作中ではバカに見えるシーンがいっぱいあるんですけど、僕は明は絶対バカじゃないと思ってます。

ーー難しい役だと思います。キャスト発表時の反響も大きかったのではないでしょうか?

興津:やはり原作ファンからの反応が多かったですし、普段は連絡を取らないような人からも連絡が来ました。同業の人からも「佐藤のイメージって全然できなかったけど、興津くんだったら合うと思いました」とも言われました。

ーー興津さんは関西出身ですが、 佐藤の特殊な関西弁キャラを演じるにあたって工夫したことはありましたか?

興津:「なぜ関西弁を喋るのか?」というところを考えました。漫画だと、ある吹き出しの最後の1行だけが関西弁だったりして、読んでたら気にならないセリフも、音で聞いたときには絶対に違和感が出てしまいます。そういったところで違和感なく観てもらえるように演じようとしました。

ーー関西弁の役自体はこれまでにも演じられてきました。

興津:“関西”って言っても広いので、兵庫だったり大阪、京都、三重、和歌山、滋賀……言い出したらキリがないんですけど、その中にも違いがちゃんとあります。今回は、現場に関西人の声優がいっぱいいたので、実際にアフレコで合わせてみて「ここちょっと違うよね」とか話し合いながら、調整してり録りました。

ーーアニメーションになったことで、関西弁のイントネーションの問題も出てくると思います。

興津:やっぱり関東の人にはわからない関西弁の特徴や抑揚がいっぱいあるんです(笑)。僕の出身は淡路島なので、またちょっと違うし。でも原作では、舞台が南大阪であることは提示されてるから、大阪の南の方出身の方に監修をしてもらいました。「ここ関西弁じゃなかったですけど大丈夫ですか?」とか、「ここはわざとですか?」とか相談もしながらやってましたね。佐藤はめんどくさいんですよ(笑)。

ーーさらに、佐藤は東京から大阪に来てる、という設定ですよね。

興津:そう、だから難しい(笑)。でも、佐藤が仕事を探している時に書いた履歴書の中ではいろんな地方に行ってるんです。佐藤がそういう部分の違和感も極力生まないように普通に溶け込もうとしている過程を、一応僕はこだわってやっているんです。佐藤は“プロである”ということについて一番執着しているんです。いろんなことに挑戦して普通に生きようとしてるから、学んだことはすぐ活かすんですよね。

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