『光る君へ』大石静の脚本構成力が恐ろしい まひろ×道長の人生を変える直秀の死

 直秀の手が土を強く握り締めていたのを見て、道長は死に際の苦しみを悟ったはずだ。土を払い、直秀の手に自らの扇を持たせると、道長は合掌する。その手は震えていた。やがて道長は手で土を掘り始め、まひろもそれを手伝う。2人は直秀たちの遺体を埋葬した。自らが汚れるのも構わず、直秀たちを埋葬した道長は、土で汚れたまひろを見ると小さな声で「すまない」と言い、まひろの衣についた土を払い始める。道長の土を払う所作から、道長が他者を思いやる心優しき青年であることがひしひしと伝わってきて、胸が締め付けられる。

 亡き直秀たちに届けるように「すまない。皆を殺したのは……」と声をあげる道長だが、言葉に詰まる。直秀たちの処分を軽くするつもりで看督長に心づけを渡したことが直秀たちの死を招いた。悔やんでも悔やみきれない道長の思いが、言葉に詰まるその横顔に表れている。「余計なことをした!」と道長は声をあげ、涙をこぼしながら何度も何度も「すまなかった」と口にする。道長が拳で自らを殴りつけ、地面を掻きながらむせび泣く様からは、自らの行いへの憤りと信頼できる相手を殺めてしまったやるせなさ、深い悲しみが溢れんばかりに伝わってくる。まひろはそんな道長を抱きしめた。道長はすがるようにまひろを抱き締めて慟哭した。

 自らの行いが直秀の死を招いたことを、道長は忘れないだろう。まひろもまた、直秀の死を深く受け止める。大学寮へ入る弟の惟規(高杉真宙)を見送った為時(岸谷五朗)は、まひろを見て「お前が男であったらと、今も思うた」と言った。「私も、この頃そう思います」と返したまひろはこう続けた。

「男であったなら、勉学にすこぶる励んで、内裏に上がり、世を正します」

 為時の感嘆する声に、まひろは「言い過ぎました」と笑う。だが、この言葉はまひろの心からの願いだ。直秀のような死に方をする人をなくすために、世を正したい。直秀との別れは残酷なものだったが、道長とまひろの人生に大きく影響を与えたに違いない。

■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK

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