ラウ・チンワンの“奇行大熱演劇場”だけでも一見の価値あり! 『神探大戦』は唯一無二の味

『神探大戦』ラウ・チンワンの奇行大熱演劇場

 犯罪が起きた! 警官がやってきた! 助かった! けれどその警官は、幻覚と会話している、激しくデンジャラス人だった……! 現在「未体験ゾーンの映画たち2024」で上映中の『神探大戦』(2022年)は、闇雲な勢いと監督のドン底みたいな意地の悪さが同居した、奇妙でパワフルなアクション活劇である。ちなみに本作は『MAD探偵 7人の容疑者』(2007年)の精神的な続編だが、あまりにノリが違うので、特に観ていなくてもOKだ(最近の香港映画に多いこの「精神的な続編」という言葉、便利すぎませんか?)。

神探大戦

 本作のあらすじはこうだ。レイ(ラウ・チンワン)は数々の事件を解決して「神の捜査官=神探」と呼ばれる凄腕の刑事だが、捜査方法が犯人の心理を追体験する特殊能力(周りから見たら単なる勘と奇行)であること、そしてブチギレやすいのが玉に瑕の暴走野郎である。

神探大戦

 そんなある日、警察官2名が殺される殺人事件が起きる。しかも犯人まで警察官だった。警察が事件について記者会見を行っていると、レイが警察署のバリケードを車でブチ破って突撃してくる。レイは拳銃を奪って、警察官を人質にとり(※レイも警察です)、拳銃を人質の口に突っこみながら自説を展開。「お前らの推理は間違っている! 犯人は別にいる!」。そう訴えるレイだったが、一瞬の隙を突かれて警察に撃たれてしまう(※繰り返しますが、レイも警察です)。

 時は流れて現代。レイは奇行が本格化して警察の職を追われていた。最愛の娘とも別れ、1人で寂しくホームレスをやっている。しかし彼の殺人事件解決への執念はまったく衰えていなかった。ねぐらにしている高架下の壁や地面一面に過去の殺人事件を調べて調査レポートを書き殴り、勝手に捜査を続けていたのである(そして周りから見たら完全に毒電波にやられた人に仕上がっていた)。

神探大戦

 そんなある日、今度は過去の猟奇殺人事件を再現する謎の犯罪者集団が香港中で暴れ始める。ある者は生きたまま焼かれ、ある者はラーメンのスープにされる。レイは独自の捜査法と常軌を逸したド根性で事件を追うが、事件はノンストップでおかしな方向に暴走を始め……。

 あらすじから薄々伝わると思うが、本作は主人公レイの異様なキャラクターで持っている。正直、ミステリー映画としてのトリック的な部分は「?」な箇所もあるし、アクションもCG多めなのと、そのCGも予算の限界を感じる箇所が多い。特に爆破系のCGが安いのと、年齢指定の関係か、残酷な犯行現場をハッキリ映せていないのは、このジャンルとしてはかなり大きな足かせだ。それにテンポがあまりに早いので、逆に「この人たち、今何をやってるんだっけ?」となってしまう観客もいるだろう。しかし、それでも本作はラウ・チンワンという稀代の名優と、香港随一の鬱映画職人ワイ・カーファイの手腕によって、高速かつヘヴィなスラッシュメタルのような魅力を放っている。

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