『魅惑の人』愛と復讐に引き裂かれるシン・セギョン チョ・ジョンソクが全身で語る

 雨が降る夜、モンウはインに「私は返答をしに参りました」と言い、「いかなる苦痛であろうと受け入れます。王様のおそばにいます」と答える。ここのチョ・ジョンソクの芝居が秀抜だ。返事を聞く前に、声にならない声を上げ覚悟を決めるように息を飲み、頷く。そして、モンウの「そばにいる」という返事を聞くと、安堵の息を吐き、「あぁ、よかった、よかった……」という声が聴こえるような背中を見せてモンウを抱きしめる。

 チョ・ジョンソクは、全身から声を上げ観るものを魅了する希有な俳優だ。彼の歌やダンスやコメディセンスなどの多彩さはもとより、本作ではオクターブ上の繊細な感情演技に何度も琴線が共鳴するように震わせられる。セリフはもちろん、ひとつひとつのシーンに込めた眼差し、言葉にならない声の出し方、その全てがインの感情と同化しており、観るものの目を魅了してやまない。

 物語は、落雷により先王がインのために植えた桃の木が焼失したことから、子供のいないインの養子としてムンソン大君(チェ・イェチャン)を世子に迎えることになる。しかし、宮廷には激震が走り、インがジョンファンを宥める姿を偶然目にしたモンウは、変貌したインの姿を見て、疑念が確信に変わってしまう。そして、インの暗殺を実行することにする。

 愛し合うインとモンウが、宮廷の勢力争いにより復讐という残酷で哀しい運命へと物語は進んでいく。しかし、モンウの心はインに魅惑されてならない。囲碁の勝負のように、インはモンウの数手を先を読んでいるのではないだろうか。碁盤を制するのはインであり、インの勝負は、モンウとの愛を成就させるものであってほしいと切に願っている。

■配信情報
『魅惑の人』
Netflixにて配信中
出演:チョ・ジョンソク、シン・セギョン、イ・シニョン、パク・イェヨン
演出:チョ・ナムグク
脚本:キム・ソンドク
(写真はtvN公式サイトより)

関連記事