『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』は“ガンダムという呪縛”を解き放つ一作に

『SEED FREEDOM』が解放したもの

 『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が特大のサプライズヒットを記録している。公式情報によると公開から3週間(1月26日~2月18日)で観客動員186万人、興行収入31億2630万を突破。どこまで記録を伸ばすのか想像もできない状況となっている。それだけ長年の間待ち続けた、熱いファンたちの待望の作品だったことがうかがえる。今回は『SEED』シリーズの歴史も簡単に振り返りながら、本作の魅力についても迫っていきたい。なお、一部ネタバレ部分があるので、作品内容を知りたくない方はご注意ください。

 『機動戦士ガンダムSEED』はガンダムシリーズにおける中興の祖ともいえる作品だ。放送時の2002年は初代の『機動戦士ガンダム』の放送から22年が過ぎていた。変わらず人気シリーズではあるものの、ファン層の世代が一巡したと思われた中で放送された『SEED』では、『機動戦士ガンダム』を踏襲したような部分も見られた。キャラクター人気が特に根強く『月刊ニュータイプ』で毎号行われていた人気キャラクターランキングでも、主人公のキラ・ヤマト、親友のアスラン・ザラは続編の放送終了後も数年に渡り上位にランクインしていた。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』

 それだけの人気であれば、作品評価も高くファンの誰もが認める作品なのだろう……と思われるかもしれないが、放送当時から絶賛評だけが集まっていた作品ではない。特に続編の『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』で、一通りの結末を迎えたものの、ファンからは不満の声も多く聞こえていたのも事実だ。ヒットした作品の宿命ともいえるだろうが、『ガンダムSEED』シリーズは他のガンダムシリーズと比較しても賛否両論が飛び交っていた。

 そして劇場版へと流れが続いていくが、元々制作発表が行われたのは2006年だ。TVシリーズの内容や劇場版制作発表からの時間経過から、今作の制作発表、及び公開日が正式に発表されても、その人気の高さから期待する声も多かったものの、同時に茶化すような声もあった。そんな期待と不安が渦巻く中で公開されると、評価は絶賛の一色となり、たちまちSNSでも大きなムーブメントが発生した。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』

 例を挙げると、序盤で描かれているヒロインのラクスがキラのために手料理をふるまうワンシーン。あまりにも多すぎる上に揚げ物が中心となっており、若者向けのカロリーが高すぎる料理という点に対して、多くの観客からツッコミとラクスの愛が感じられるとの評価が相次いだ。そして福田己津央監督が「ものすごい量を作るのは、ほっとかれてるキラへちょっとした嫌がらせ」とXで明かすと、さらに流行し、ネットミームとして大きな話題となった。

 

 近年はSNS戦略が重要視されており、ガンダムシリーズに関して細かな描写を笑いのネタとして楽しむ風潮もある。真面目なシーンに対してそのような楽しみ方は憚られるべきという意見もあるだろうが、一方で限度を超えなければ、それが視聴者の愛のある“いじり”であり、作品の知名度をより高めることもある。そして今作はSNSにおけるアニメファン層のノリと、見事に合致したことも、ヒットのポイントとなったのだろう。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』

 もちろん、正面から本作を観ても、納得の面白さが詰まったシーンが多々ある。まさにタイトルにもあるように、「フリーダム」という名が相応しい、自由な発想で生まれた作品となっているのだ。既存のキャラクターたちが活躍し、すれ違いを含めた人間ドラマを生み出しているほか、OPを『SEED』シリーズの楽曲を多く務める西川貴教が担当したり、あるいはTVシリーズでも散見された本来は機動性に劣るはずの戦艦なのにもかかわらず、操舵手のノイマンが神回避するなどの過去の『SEED』シリーズのお約束を全てと言っていいほどに踏襲。細かいところにも配慮が行き届いている。

 筆者も『SEED』リアルタイム世代のため、非常に懐かしい思いとともに楽しんだ。EDでSee-Sawの楽曲が流れた際は、事前情報を入れずに劇場に向かったため、大御所となった石川智晶と梶浦由記が再びタッグを組んだ新曲が聴けると思っておらず、体が震える思いをした。感動するポイントは違うだろうが、平成のあの頃を感じて同じような思いを抱いた観客も非常に多かったのではないだろうか。ファンならば誰もが垂涎の作品となっている。

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