『お別れホスピタル』は“人間賛歌”ドラマ 沖田×華の原作を昇華させた制作陣にインタビュー

ベテラン勢も安心して球を投げられる岸井ゆきのの“受容能力”

――先ほどおっしゃっていたように、本庄さんをはじめ、様々な患者さんとの日々を通して正解のない問いと向き合っていく主人公・辺見さん役に岸井さんをキャスティングされた理由をお聞かせください。

小松:今回の企画が持ち上がった時、真っ先にお顔が浮かんだのが以前にも一緒にお仕事させていただいた岸井さんでした。決め手は何といっても、あの自然なお芝居とずば抜けた感受性の高さです。『お別れホスピタル』は辺見さんが患者さんたちから何を受け取り、どう考えたのかを通して描かれるドラマです。岸井さんはご自身の演じられるキャラクターが感じたことを自然に表現できる力がとってもある方なので、辺見さんを演じられるのはこの人しかいないなと思いました。

――ベテランの役者さんが大勢いらっしゃる中で、作品の真ん中に立つというのは相当なプレッシャーがあったかと思われます。現場ではどういったやりとりがあったのでしょうか?

笠浦:岸井さんは映画やドラマはもちろん、舞台でも経験を積まれてきたということもありますが、受容能力にとても長けていて、どういう個性の役者さんがきても、相手の芝居をしっかりと受け止めてそれに応えることができるんです。岸井さんは自分がどう球を投げるかではなく、相手の球をどう受け止めるかを大切にされている方。どんな球でも受け止めますよというスタンスでいてくださるので、ベテランの方々も安心して各々の球を投げていらっしゃったような印象を受けます。

――ベテランの方々が安心して球を投げられるってすごいことですね。相当な器がないとできないことだなと思いました。

笠浦:岸井さん自身から自己主張が強い印象は全く受けないのに、球を受ければ受けるほど輝きを増していくといいますか、球を受けたり打ち返したりする中で、おおっというようなお芝居をされるんです。お若くして一本軸の通った稀有な役者さんだなと改めて感じました。

――ドラマでは、松山ケンイチさん演じる医師の広野誠二がもう一人のメインキャラクターとして描かれています。岸井さんと松山さんのコンビネーションについてはいかがでしたか?

笠浦:お二人とも本当に自然体で、もちろん台本はあるんだけども、まさにその瞬間に生まれたかのようなやりとりが素敵だなと思いました。松山さんの、あの少し力の抜けたお芝居がまたいいんですよね。広野さんというのは、家族との複雑な関係もあって、ある程度の距離感を保って人と接するタイプの辺見さんが少しずつ心を開いて自分のことを語れる相手。また、それに対して否定や理屈で返すのではなく、ふわっと受け止めて心が少し楽になるような言葉をかけられる人です。松山さんがそういう広野さんの空気感をパッと掴んで繊細に表現してくださっていて、それがドラマの救いになっているように思います。僕たちも松山さんが広野さんを演じてくださったことで救われた部分が多々ありました。

――ドラマも残り2話となりましたが、最終回に向けての見どころを教えてください。

笠浦:第3話からまた新たな患者さんやその家族が登場しますが、看護師や医師と患者さんの一対一の関係だけではなく、そこにケアワーカーが加わったり、患者さん同士、あるいは患者さんの家族同士の繋がりも生まれたりと、1・2話以上に人間関係が交錯し、群像劇の要素が強まっていきます。そこから浮かび上がってくる病院という枠を超えた人間と人間のぶつかり合いや、各登場人物の抱えている思いも見どころです。特に第3話では、院内でクリスマス会が開かれ、関係者が一堂に会するので、それぞれの動きに注目してみてください。

――沖田さんが書いたドラマの収録現場潜入レポを拝見したのですが、沖田さんもドラマに出演されているのだとか。

小松:具体的にどことは申し上げませんが、残り2話のどこかに出演いただいています(笑)。ドラマに自然と溶け込んでいらっしゃるので、頑張って見つけてみてください!

――最後に改めて今、この物語を届ける意義について教えてください。

笠浦:療養病棟に取材に行かせていただいた時に、一人の看護師さんが「ここにいる患者さんは幸せなんじゃないかと思うんです」とおっしゃっていたのが印象的です。その言葉に使命感を感じましたし、僕たちも療養病棟という場所を一つの幸せな空間として描けたらいいなと思いました。死に向かう間際というのはある意味、命が最も輝く瞬間なのではないでしょうか。死を描くことで、逆に生きる喜びが際立つ。そんな人間賛歌のドラマになっていると思います。

小松:笠浦さんが今言ったように、死について考えることは、どう生きるかということについて考えることとイコールだと思っています。それには正解も不正解もないので、ぜひ一緒に考えていただきたいと思っていますが、療養病棟は、作中でも「一度来たら元気になって退院していく人はほぼいない」という表現を使っているように、入院されている方が全員そこでお亡くなりになるわけではありません。退院されていく方も、現実にはもちろんいらっしゃいます。療養病棟というのは医療のセーフティーネットであり、もしかしたら我々にとって最も身近な病院なのかもしれません。その中で日々生きている方々の姿を見つめていただきたいです。

■放送情報
土曜ドラマ『お別れホスピタル』
NHK総合にて、毎週土曜22:00〜22:49放送【全4話】
出演:岸井ゆきの、松山ケンイチほか
原作:沖田×華
脚本:安達奈緒子
音楽:清水靖晃
制作統括:松川博敬、小松昌代
演出:柴田岳志、笠浦友愛
写真提供=NHK

関連記事