『不適切にもほどがある!』本人を投じた“八嶋智人イジり” 宮藤官九郎による巧妙な仕掛け

 考えてみれば、テレビとは想像力のプロたちが集結する場所だ。一般人が日常生活では決して見ることができない景色や、考えもつかなかった面白い体験をお茶の間に届けていく。エンターテインメントとは、そういうものであるはずだ。だが、いつしか劇中でテレビプロデューサーの栗田一也(山本耕史)が、「“かーわーいい~”の言い方、セクハラです。伸ばさず、歯切れよく“かわいい!”これでお願いします」と、八嶋のほとんどの発言に注意をしていたように、どこからも指摘を受けないことが目的にすり替わりつつある。せっかくの想像力がリスク回避に全振りされてはいないか。そんな問いかけを感じずにはいられなかった。

 もちろん、誰もが不快にならない配慮は大切だ。多くの人が演歌とけん玉を「なんか見れちゃんだよな」と眺めるのも間違いではない。だが、すべての番組が、演歌とけん玉や、グルメばかりになってしまっては、「テレビがつまらない」と言われても仕方ない。なにも昭和に戻って過激なことをやれと言っているのではない。視聴者の想像を超えてくる創造を目指していく気概があってこそ、テレビが面白くなるのではないか。

 ちなみに、第3話で八嶋智人が生放送のラスト30秒で告知をした劇団カムカムミニキーナの舞台『かむやらい』は、実際に八嶋が出演するガチの宣伝という。これもひとつの想像を越えた仕掛けといったところだろう。また、これほど本人を投じて“八嶋智人イジり”をするということは、脚本家・宮藤官九郎との関係性も深いのではと思われるが、意外にも「初クドカンドラマ」と本人がXでポストしているというのもまた驚きだった。

 そして、劇中で「ミスターしれっと」と自称していた台詞ともまたリンクしていることに気付かされる。まさに「前からずーっとクドカンドラマに出てるような気がする人」を地でいく人だなと、また一段階笑いが込み上げた。他にも、ロバートの秋山竜次や山本博が、持ち味を生かしたキャラクターとして登場してくるところも絶妙だった。秋山扮するズッキーはいわゆる昭和のテレビスターで今の時代では考えられないほどセクハラし放題の人。だが、緊急事態には真面目で紳士的な顔をのぞかせるのだ。

 一方、山本が演じたつつみんこと堤ケンゴは、6股交際疑惑というスキャンダルをすっぱ抜かれるものの、逃げることなく自らスタジオに乗り込み彼なりに筋を通してきたことを訴える。つい一面だけを切り取られ、話題に上げられがちな人にも「実は……」な部分はある。その想像力を働かせることも、また現代の視聴者に失われがちなものなのかもしれない。

 そして、「想像力」が育むのは、何もテレビだけの話ではない。子どもの夢だってそうだ。第3話ではタイムマシンを開発した井上(三宅弘城)が、実は市郎の教え子だったことが判明する。ちょうどタイムスリップを体験した直後だったからこそ市郎は、井上の夢を頭ごなしに否定することなく素直に応援することができたのだが、このタイミングの良さは果たして偶然だろうか。

 そして、市郎が2024年の世界で出会った渚(仲里依紗)とキスをしようとすると、ビリビリッと弾け飛んでしまう現象。どうやらこれが井上の話していたタイムパラドックスだという予想はつくが、市郎と渚の距離が縮まることで未来がどう変わってしまうというのか。視聴者の想像をはるかに超える展開が待っていることを期待しつつ、次回を待ちたい。

■放送情報
金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:阿部サダヲ、仲里依紗、磯村勇斗、河合優実、坂元愛登、三宅弘城、袴田吉彦、中島歩、山本耕史、古田新太、吉田羊
脚本:宮藤官九郎
プロデュース:磯山晶、勝野逸未
演出:金子文紀ほか
主題歌:Creepy Nuts「二度寝」(Sony Music Labels)
編成:河本恭平、松本友香
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/futekisetsunimohodogaaru/
公式X(旧Twitter):@futeki_tbs
公式Instagram:futeki_tbs

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