『アクロス・ザ・スパイダーバース』がTV初放送! 世界を驚かせた革命的な映像とドラマ性

マルチバース設定を巧みに生かした物語と演出

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』©︎ 2023 Sony Pictures Animation Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: ©︎ & TM 2023 MARVEL.

 しかし、本シリーズの達成はそれだけにとどまらない。従来のCGアニメーションと異なる絵柄を実現したのみならず、全く絵柄の異なるスパイダーマンを共存させることに挑戦したのだ。

 今では広く知られるようになった、マーベル世界の「マルチバース」という概念は、コミック原作にも描かれるものだが、映画で最初にこれを全面的に展開したのは、この『スパイダーバース』だった。マルチバースとは、日本語では多元宇宙と訳され、我々が知覚しているこの宇宙以外に別の宇宙があるとするものだ。

『スパイダーマン:スパイダーバース』©︎ 2018 Sony Pictures Animation Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: ©︎ & TM 2019 MARVEL.

 本作はこのマルチバースという設定を存分に生かして、別の宇宙から多くのスパイダーマンが迷い込んでくるという物語を採用した。しかも、住む宇宙が異なるという点を強調するかのように、各スパイダーマンの絵柄が異なる。例えば、スパイダーマン・ノワールは、モノクロで描かれ、豚のスパイダーマンであるスパイダー・ハムはカートゥーン調だ。さらに、ロボット「Sp//dr」に乗り込んで戦うペニー・パーカーは14歳の少女で日本アニメのような見た目をしている。

 一つの作品で全く異なる絵柄を共存させることで、マルチバースそれぞれの宇宙が別ものなのだということを強調させることに成功した。通常、絵柄が異なるものが混ざれば異物のように感じさせてしまうが、むしろその異物感こそが制作陣が狙ったものと言える。

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』©︎ 2023 Sony Pictures Animation Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: ©︎ & TM 2023 MARVEL.

 これまでの3DCGとは異なる絵柄を目指し、さらに、マーベルコミックの特徴であるマルチバースという設定を最大限に活かすためにキャラクターごとに絵柄を変える。これまでの常識を次々に打ち破ったことで、各方面から絶賛を浴びたのだ。

 そうした斬新さとともに、物語のレイヤーにおいては、「大いなる力には、大いなる責任がともなう」という『スパイダーマン』シリーズに通底するテーマをしっかりと押さえ、身近な人の死を乗り越えて成長するティーンエイジャーの姿を描いている点も高く評価された。

続編『アクロス・ザ・スパイダーバース』はさらなる進化を見せた

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』©︎ 2023 Sony Pictures Animation Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: ©︎ & TM 2023 MARVEL.

 そんな1作目を受けて制作された続編『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』では、さらなる進化を見せている。1作目では6人だけだった(これだけでも充分多いのだが)スパイダーマンの数が一気に240人近くに増えている上、主人公・マイルスが多くの並行世界を駆け抜けるという物語展開によって、キャラクターだけでなく舞台そのものを様々な画風で描くという試みを行っている。

 これは大変な作業である。なぜなら、新たに登場するスパイダーマンも異なるテクスチャーを持っているからだ。例えば、スパイダー・パンクことホービー・ブラウンは、まるでグラフィティアートのようなスタイルで描かれる。女性スパイダーマンであるグウェン・ステイシーの宇宙はまるで水彩画のようで、その空間描写自体が彼女の繊細な心情を的確に表現している。異なるアートスタイルが一つに作品に共存しているという贅沢な作品なのだ。

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』©︎ 2023 Sony Pictures Animation Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: ©︎ & TM 2023 MARVEL.

 さらには、実写版のキャラクターも僅かだが登場する。アニメーション空間に実写の人間が混じってもおかしな印象を与えていない。生身の人間がいる宇宙もマルチバースで拡がる多元宇宙の一つなのだということを、説得力を持って描けているのだ。それは、我々が生きているこの現実にも、マルチバース的な存在があるかもしれないと感じさせることに成功していると筆者は思う。

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』©︎ 2023 Sony Pictures Animation Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: ©︎ & TM 2023 MARVEL.

 そして、『アクロス・ザ・スパイダーバース』はこれまで『スパイダーマン』シリーズが描き続けてきた運命に対して深い洞察を見せる作品でもある。本作では、スパイダーマンは、世界と愛する人を同時には守れない運命なのだと説かれるが、主人公はそんな運命に対して挑んでみせるのだ。その結末は、次作『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』で描かれることになるが、『アクロス・ザ・スパイダーバース』は単なる序章に終わらず、孤独な戦いとなっても運命を変えてみせるという強い決意をマイルスが抱くまでのドラマを見事に掘り下げていて感動的だ。

 愛する身近な人の死を乗り越えて成長することを描いてきたこのシリーズが、愛する人と世界を両方救える存在に成長できるかを問う。定めを乗り越えんと決意する少年の顔はとても凛々しい。革命的な映像と、運命を乗り越えるドラマがハイレベルに結びつく、脅威の作品である。この機会に是非この作品に触れてほしい。

■放送・配信情報
『スパイダーマン:スパイダーバース』
WOWOWシネマにて、2月11日(日・祝)19:00〜放送
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/detail/115751/
WOWOWオンデマンドにて、2月11日(日・祝)21:00より配信開始
配信サイト:https://wod.wowow.co.jp/program/115751

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
WOWOWシネマにて、2月11日(日・祝)21:00〜TV初放送
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/detail/195470/
WOWOWオンデマンドにて配信中
配信サイト:https://wod.wowow.co.jp/program/195470

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