『ゴールデンカムイ』山﨑賢人の“原作通りではない肉体”はなぜリアル? 武道家が解説
ここまで、いかにキャラ造形が原作に忠実かを述べてきた。だが、今作を本当に名作にした要因のひとつとして、あえて“原作通りにしなかった部分のさじ加減”がある。
「この部分は、忠実に再現したらマンガチックになり過ぎてしまう」という点は、あえて再現していない。
公式パンフレットにも書かれているが、白石の銀髪や月島基(工藤阿須加)の低すぎる鼻まで再現すると、コスプレ感が出てしまう。だから、白石は黒髪、月島はナチュラルな鼻のままにしたようだ。だが、少しぐらい原作とビジュアルが異なろうと、矢本悠馬は完全に白石であり、工藤阿須加は完全に月島であった。改めて、俳優としての彼らに敬意を表する。
そして、筆者が感じたもっとも“原作通りにしなくて良かった”点は、「杉元佐一の肉体」である。
原作の大きな特徴として、「男性キャラがだいたいマッチョ」という点がある。だからこそ、「杉元役は山﨑賢人」と発表された際、「杉元はあんなに細くない」という声が上がったのである。筆者もそう思った。
だが冷静に考えてみると、原作で描かれている筋肉は、「専門的なウエイトトレーニングを相当やり込んだような」筋肉である。“日本ウエイトトレーニングの開祖”と呼ばれる若木竹丸が、「怪力法並に肉体改造体力増進法」を出版したのは1938年、昭和に入ってからだ。明治時代の軍人ももちろん体は鍛えているだろうが、あそこまでの肉体を保持していたとは考えにくい。あの肉体も、白石の銀髪や月島の低すぎる鼻と同じように、“漫画的な表現”なのだ。原作に忠実に再現した方が、リアリティがなくなる。
『ゴールデンカムイ』は世界にも通用するアクション映画 “実写化俳優”山﨑賢人の集大成に
少しずつだが、マンガ原作の実写化アクション映画はそれほど不安視されなくなりつつあるように思う。とはいえ、やはり『ゴールデンカムイ…
とは言いながらもあまりにもモヤシだったら、それはそれで杉元ではない。「体重を10㎏増やした」と語っていた山﨑賢人の肉体は、ちゃんと杉元しているだろうか。
杉元が温泉に入るシーンがある。そこで見せた山﨑賢人の肉体は、「明治時代の軍人」と聞いてイメージする通りの体だった。
ちゃんと筋肉は付いているが、過剰にマッチョではない。自重の筋トレと武道の鍛錬と実戦で付いたような、自然な筋肉だった。全身のキズも相まって、凄みのある体だった。
映画で描かれたのはコミックスで言うと3巻あたりまでであり、物語はまだ序盤だ(原作は全31巻)。言わば今作は“大いなるプロローグ”であり、物語が大きくうねり出すのは次作からだと思われる。
次作がある前提で書いているが、これで次作がなかったら、筆者一推しの尾形は「杉元にやられて川に落ちただけの人」になってしまう。
そして、この作品名物の“変態脱獄囚”たちの活躍も期待大だ。あの変態やこの変態が現実のものとして、ここに書くのも憚られるような変態犯罪を繰り広げていくのだ。ワクワクが止まらない。とりあえず、“変態快楽殺人鬼”の辺見和雄は、萩原聖人が演じることがわかっている。なにその絶妙なキャスティング。
今はただ、毎日次作の発表を待っている。完結編を観るまでは、死ねない。
※アシリパの「リ」は小文字が正式表記。
■公開情報
『ゴールデンカムイ』
全国公開中
出演:山﨑賢人、山田杏奈、眞栄田郷敦、工藤阿須加、栁俊太郎、泉澤祐希、矢本悠馬、大谷亮平、勝矢、高畑充希、木場勝己、大方斐紗子、秋辺デボ、マキタスポーツ、玉木宏、舘ひろし
原作:野田サトル『ゴールデンカムイ』(集英社ヤングジャンプ コミックス刊)
監督:久保茂昭
脚本:黒岩勉
音楽:やまだ豊
アイヌ監修:中川裕、秋辺デボ
製作幹事:WOWOW・集英社
制作プロダクション:CREDEUS
配給:東宝
©野田サトル/集英社 ©2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会
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