『PORTAL-X』には映像作品の醍醐味が詰まっている 現実ともリンクする社会への問題提起
作中の各世界で起きている問題は、いずれも我々が暮らす現実世界にも共通している。目先のコスト低下を追求した結果、食糧自給率が下がった第1回の世界。複合的な要因が重なり子供が生まれなくなった結果、文明維持が難しくなったポストアポカリプスな第5回の世界。各エピソードを鑑賞することそのものが、この社会への問題提起となる構成が見事だ。しかもとてもわかりやすい。
個人的には、高校の授業として見せてもいいのではと思うくらいだ。特に少子化を取り上げた第5回は秀逸。その当事者たる子供の視点や思いが丁寧にくみ取られており、ラストを含め強く印象に残り続けている。エピソードを通してメッセージをしっかりと伝えるが、表面的にただ台詞にするのではなく、こういう問題が発生したため、このような世界になった、という結果を明確に提示する手法を取る。だからこそより腹に落ちる。何を伝えたいか、どうすれば伝わるか。もちろん、映像作品としての面白さは崩さない。この目標を達成するためのあらゆる試みが張り巡らされており、かつそれが成功している。非常にクレバーな作品だと感じる。
終盤には面白いツイストもあり、単なるオムニバスではなく全8回がきちんと1つの作品として収束するようになっている。これまで各話で提示されたメッセージもあるテーマに繋がることがわかる。モキュメンタリーという形式、全8回を通して描かれたさまざまな問題、そしてこの現実。それこそ各世界がポータルを通して繋がるように、物語が交差する。何もかもに意味がある。そこに説教臭さや嫌味は全く感じない。エンタメを通して何かを問いかける、映像作品の醍醐味が本作には詰まっている。お世辞抜きに面白い。1人でも多くの人に観てほしい作品だ。
■放送・配信情報
『PORTAL-X 〜ドアの向こうの観察記録〜』(全8回)
WOWOWにて、毎週金曜23:30〜放送・配信中
WOWOWオンデマンドにて、全8回配信中
出演:柄本時生、伊藤万理華、彦摩呂、小林幸子、早見沙織、佐藤弘道、鈴木もぐら(空気階段)、中山忍ほか
監督・脚本・VFX:伊藤峻太
撮影・音楽:椎名遼
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/detail/188611
公式X(旧Twitter):@drama_wowow
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