『さよならマエストロ』嵐を呼ぶ第3楽章 芦田愛菜演じる響と音楽の運命的な絆

「ボッカ・ルーポ!」

 オオカミの口を意味するイタリア語は狩りに出る人を勇気づけ、転じて幸運を呼びかける言葉となった。『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(TBS系)第3話(第3楽章)では、夏目俊平(西島秀俊)と晴見フィルが人々に音楽のギフトを届けた。

 『さよならマエストロ』では、毎回、晴見フィルの課題曲としてクラシックの名曲がフィーチャーされる。第1話ではベートーヴェンの交響曲第5番「運命」、第2話はロッシーニ「ウィリアム・テル序曲」だった。第3話ではふたたびベートーヴェンの交響曲第6番「田園」を取り上げる。

 一つ屋根の下で暮らす父・俊平と娘の響(芦田愛菜)の関係は、響が俊平を拒否しており改善の兆しは見えない。そんなさなか長男の海(大西利空)は海外にいるはずの母・志帆(石田ゆり子)を目撃する。志帆は子どもたちを自立させ、俊平と響の仲直りをもくろんで姿を隠したのだった。事情を察した海は志帆に協力を申し出る。

 新生・晴見フィルはホームコンサートを計画し「田園」の練習に取り組むが、新旧楽団員の間に不協和音が生じる。主な原因はチェリストの羽野蓮(佐藤緋美)で、トランペットの大輝(宮沢氷魚)やティンパニーの菜々(久間田琳加)に次々とダメ出しをして、その場の空気を凍り付かせた。ピッチが合わないオーケストラは蓮にとって耳障りでしかなく、プロの演奏経験のある蓮には未熟さが目立って聞こえるのだった。

 あわや空中分解かと思われた晴見フィルに追い討ちをかけるように、コンサート当日に施設点検でホールが使えなくなってしまう。コストカットを推進する白石市長(淵上泰史)の差し金と思われたが、俊平は市民が集まる市場での即興コンサートを開催する。

 大輝と蓮の対立はアマチュアとプロの間にある壁を思わせる。自分ができることを楽しんでやる立場と他人に評価される世界は、クオリティの違いに加えて自己に向けるまなざしが異なる。プロの世界を知っているが内側に閉じている蓮と、他者と交わる中で音楽の楽しさを知って育った大輝は対極的だ。それぞれの良さを知る俊平はどちらかを損うことはせず、大輝と蓮のためにとっておきの舞台を用意した。二人の幸運を願って。

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