朝ドラ『ブギウギ』“諦め”の世の中で恋をする難しさ 伝蔵のおでん屋台もついに閉店に

 1943年10月、政府は戦況の悪化に伴い、これまで猶予されていた20歳以上の文科系学生の徴兵に踏み切った。いわゆる学徒出陣が、皮肉にもスズ子(趣里)に愛助(水上恒司)への恋心を実感させる。スズ子にとって愛助は、いつしか失いたくない大切な存在となっていた。

 しかし、『ブギウギ』(NHK総合)第56話で、愛助はこれまでとは一転、「恋だなんだにうつつ抜かしちょって、ええんかなって……」と慎重な姿勢を見せる。スズ子との恋に踏み止まってしまうのは、出征が決まったからではない。坂口(黒田有)に、スズ子は己の野心のために自分を利用していると吹聴されたからでもない。いつ死ぬかもわからない戦地に飛び込んでいく、同級生たちへの“罪悪感”からだった。

 愛助の思いを受け、スズ子が六郎(黒崎煌代)の話をしたのはやはり2人が重なってみえるからだろう。幼い頃から身体が弱かった愛助と、“トロい子”と言われ続けてきた六郎。どちらも純粋で心優しいが、みんなに馬鹿にされるからと学校に行かなかった六郎だけじゃなく、愛助も学校を休みがちで周囲に馴染みづらかったであろうことは容易に想像ができる。愛助にとっての音楽は、六郎の友達だった亀。好きなことを追求している時間は楽しいが、“みんなと同じになれない”という心のわだかまりは成長しても消えることはなかったのだと思う。

 そんな2人を分けたのが、戦争だ。徴兵検査で甲種合格して戦地に旅立った六郎に対し、愛助は徴兵に耐えられる身体ではなく、今回の学徒出陣でも召集対象外となるのは目に見えていた。そんな自分が恋などしてもいいのか。戦争に行けない代わりに、せめて家業を継ぐため勉学に励むのが、同級生たちに顔向けできる唯一の生き方なのではないか。ずっとファンだったスズ子との恋に世の情勢も忘れて夢中になったが、ここにきて我に帰った愛助。だが、「あんさんが戦地に行かれへんいうの聞いて、今ホッとしてます」と、スズ子が流す涙は少なからず彼の心を揺さぶった。

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