『ブギウギ』六郎の死を通じて喪失に向き合ったスズ子と梅吉 2人の東京生活を振り返る

 スズ子(趣里)は奪われ続けた。母・ツヤ(水川あさみ)の死に次いで劇団の解散。歌う場を失った彼女はそれでも前を向き、先輩でもあるりつ子(菊地凛子)の精神に共鳴して自身の楽団結成を決意する。そして無事、トランペットの一井(陰山泰)、ピアノの二村(えなりかずき)、ギターの三谷(国木田かっぱ)、ドラムの四条(伊藤えん魔)を迎えた「福来スズ子とその楽団」を結成させるが、“始動”にはかなりの時間を要することになる。

 劇場側は検問のリスクを恐れ、スズ子やりつ子のような歌手のショーをしたがらなくなってしまった。結成に伴って銀行から借りた資金も底をつき始めるくらい、仕事が来ない。そんなただでさえ辛い状況で、スズ子はさらに“奪われる”。弟・六郎(黒崎煌代)が戦死したのだ。その報せを聞いた彼女は「楽しいお方も……」に始まる「ラッパと娘」が歌えなくなってしまった。楽団の前で明るく振る舞おうとしても、歌を歌おうとしても、頭の中が六郎のことでいっぱいになって涙が止まらない。そんなスズ子の前で父・梅吉(柳葉敏郎)は息子の死を受け入れることができなかった。

 第10週は、そんなスズ子と梅吉、それぞれが六郎の死と向き合い、前に進みはじめる様子が印象的だった。梅吉は六郎の死から目を避けるように香川に帰ろうとする。唯一の家族として残った者同士スズ子は一緒にいようと声をかけるが、梅吉の意思は変わりそうにない。一からやり直そうとする父の振る舞いは、目の前のスズ子までもなかったことにしてしまうことと同義であり、養子としての意識を持ち続けた彼女を傷つけた。スズ子が以前、小夜(富田望生)が梅吉を「父ちゃん」呼びした時の激しい嫌悪感……「実の娘じゃないくせに図々しい」という気持ちは、彼女自身も実の娘じゃないからこそ出たもののように感じる。そこでやはり、彼女は“あの時”から自分が養子だという自覚を捨てきれなかったことがうかがえるのだ。

 一方、梅吉は東京に来てからというものずっと事実を受け入れずに生きていた。彼が毎日のように酔っ払っていたのも、その気持ちの底にはツヤにまた叱られたいという願望あってのことだった。つまり、彼はずっと酒を飲むことでツヤの死を否定し続けている。そして今度は、六郎。その次は梅吉の分も現実を受け止め、壊れかけているスズ子の気持ち。そんな2人にとって、音楽会は“死”に向き合う大事な場面だった。

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