『フェルマーの料理』全ての謎が繋がる海の秘密の正体 切なさを滲ませる岳と魚見の関係性
海が抱えていた秘密とは、聴神経腫瘍とその進行に伴う味覚障害だった。「だから味覚だけは、味覚を失うことだけは」と切実に担当医である淡島(高橋光臣)に語りかける海。過去に余命宣告のシーンがあったことで、SNSでは海の味覚障害説は前々から推測されていたが、やはりいざこの場面を前にすると辛いものがある。今までは自信たっぷりな俺様な一面を見せてきた海から「怖いですよ、まさか味覚がなくなるかもしれないなんて」という言葉が出る日がくるとは。プロフェッショナルとしての芯の強さ、そしてそのプロ意識の隙間から垣間見える繊細な一面に、志尊の演技の幅を感じさせられる。渋谷に居場所を与えられた海が、無意識ながらにレストランKのメンバーに居場所を与えていたという構成も素晴らしい。西門(及川光博)が手にしていた書類に関しても、診断書という形で伏線回収を果たした。
「料理人として死を迎えても、店やレシピは死なない」「どんな手を使ってでも、神を超えてやる」
こうして「“料理の歴史”を朝倉海以前と以後で分ける」という海の野望のために、レストランKは生まれたのだった。このあまりにも辛すぎる事実に、前回の「最初で最後」という海の発言の重みが増す。海の病状を見据えた西門が、豊富な資金を出し、岳を料理長に任命する条件で経営に名乗り出るも、岳は「僕たちは海さんを待ちます。仲間だから」と言い放つ。因縁の相手である西門の力を借りずに、自分たちだけで「いつもどおり・無駄なく・完璧に」店を回し始めた岳。レストラン「K」の運営は順調なように見えたが、岳の心の中には黒く大きなものが渦巻きはじめていた。
海の独白はもちろんだが、今回の第8話では魚見(白石聖)と岳の関係性も切なさを滲ませた。「やっぱ北田岳は私のヒーローだ」と語る魚見の言葉からは、“海の代わり”にヒーローにならなくても、すでに岳は誰かのヒーローだったという見方もできるだろう。それでも「憧れたあの人たちを、僕は今なら超えられるんだ」という岳の天才ならではの好奇心が、彼を1箇所に立ち止まることを許さない。そしてついに、「どうして見えないんだよ!?」と蘭菜に怒鳴る“あのシーン”に繋がってしまうわけだが……。
岳が海に抱いている感情は、もはや料理人として遠く手を伸ばしたくなるような憧れではない。背中を追う“目標”ではなく、超えるべき“ライバル”に近いように感じる。海が命をかけて大切に育ててきた店を、守りたい想いに嘘はないのだろう。それでも、海が成し遂げられなかった「真理の扉の先を見たい」という、天才ならではの欲求が岳を狂わせる。この地獄の厨房に、救いはあるのだろうか。
■放送・配信情報
金曜ドラマ『フェルマーの料理』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
U-NEXT、Netflixにて配信中
出演:高橋文哉、志尊淳、小芝風花、板垣李光人、白石聖、細田善彦、久保田紗友、及川光博、宮澤エマ、細田佳央太、宇梶剛士、高橋光臣、仲村トオル
原作:小林有吾『フェルマーの料理』(講談社『月刊少年マガジン』連載)
脚本:渡辺雄介、三浦希紗
プロデューサー:中西真央
演出:石井康晴、平野俊一、大内舞子
©TBS
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