イ・ミナ×小田玲奈が考える、名作ドラマを生み出す秘訣とは? 日韓の“違い”と“共通点”

 Hulu初のオリジナル韓国ドラマ『プレイ・プリ』は、世界的ヒットを記録した『梨泰院クラス』と『愛の不時着』それぞれのプロデューサーが制作に携わる。女子大生と超人気アイドルの秘密の恋愛模様を描くWEB漫画『プレイリスト』を原作としているが、ドラマ版では加えて“若者特有の悩み”までを見事に描き出した。シナリオ、キャスティング、演出のどれもがドラマ用にチューニングされており、プロデューサーの手腕を確かに感じ取ることができる。

 日本の状況をみてみると、国内では2023年1月期に放送されたドラマ『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)が大ヒット。バカリズムによるオリジナル脚本は予測不可能な展開で視聴者を魅了し、2023年の日本ドラマ界を大きく盛り上げた作品の一つだ。同作は韓国にも輸出され、現地で人気を博している。

 日韓におけるドラマ作りは何が違うのか。そしてそれぞれのヒット作に共通する要素はあるのだろうか? 『プレイ・プリ』配信を記念して、『ブラッシュアップライフ』のプロデューサーを務めた小田玲奈と、『梨泰院クラス』を手掛け、Huluで独占配信中の新作ドラマ『プレイ・プリ』のプロデューサーを務めるイ・ミナのスペシャル対談を実施。互いのドラマのファンだという2人に制作の実情を語ってもらい、どのように名作ドラマが誕生するのか、そして次なる傑作とも言える『プレイ・プリ』誕生の背景を考える。(編集部)

日韓プロデューサーが考える、ドラマにとって1番重要な要素とは

ーー小田プロデューサーは『梨泰院クラス』のファンだそうですね。

小田玲奈(以下、小田):恥ずかしながら、私はこれまで韓国ドラマを観ていなくて、『梨泰院クラス』もコロナ禍で周りがあまりに話題にしていること、国内の新作ドラマの放送がストップしていたことから、初めて観たんですね。でも、観始めたらすごくハマってしまい、他の作品も観るようになりました。自分はこれまで『家売るオンナ』(日本テレビ系)や『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)など、お仕事ドラマを作る機会が多かったので、『梨泰院クラス』でも主人公が奮闘する中盤戦が一番好きですが、最初は復讐劇に引き込まれ、途中からラブストーリーとしても面白くなるし、いろんな見え方をするストーリーの面白さにやられました。

イ・ミナ:ありがとうございます。私も『ブラッシュアップライフ』の熱心な視聴者でした。私は特に安藤サクラさんの演技が大好きで、配信前から情報を追っていたのですが、主演の安藤サクラさんだけでなく、脇を固める助演の方々の演技も素晴らしいですし、奇抜なアイデアも見事で、思い出を刺激するような部分もあって、素晴らしい作品だと思いました。韓国でもリメイクされるそうですね。おめでとうございます。

ーー韓国のドラマでは、生まれ変わりものはどんなふうに描かれるのでしょうか?

イ・ミナ:韓国の場合、生まれ変わって2回目の人生を生きるような作品では、これまでは男性主役の場合がほとんどでした。その点、『ブラッシュアップライフ』は女性たちの物語なので、ドラマの中に私自身も投影させ、感情移入しながら、楽しんで観ることができました。自分の人生について改めて振り返るきっかけにもなりましたし、これからどう生きるべきか、幸せとは何なのかなど考えさせられる作品でもありました。

小田:ありがとうございます! 『ブラッシュアップライフ』の終盤の展開は、実は考えずに作り始めて行き着いたものなんです。最初に主演の安藤サクラさんのところに持って行った企画書では、最後は親友の命を救うためにもう1回人生をやり直すみたいな、シスターフッド的展開は全然なく、ただ人生を繰り返す話だったんですよ。

ーーさらに2つの作品に共通しているのは、どちらも最後にかかる曲が違っていたことでした。

小田:『梨泰院クラス』に影響を受けた部分はあるかもしれないです。『梨泰院クラス』の最後にかかる曲は毎回違っていますよね。日本のドラマでは主題歌として決められた曲が最後にかかることが多いので、毎回曲が違うのはどうなっているんだろうと。それで、『ブラッシュアップライフ』も最後にかける曲が毎回違うことで話題になったんですが、いつも当たり前のように主題歌を誰かに依頼するということを今回やめてみようと思ったのは、『梨泰院クラス』が頭に浮かんだのかもしれません。最後に毎回主題歌につなげるような作品とは違った作り方ができるんじゃないかと、脚本家のバカリズムさんと話していたんです。

イ・ミナ:韓国でも10数年前までは、毎回同じ主題歌がかかるドラマがほとんどでした。しかし、ドラマのエンディングには様々な感情があって、毎回違う感情が表現されているので、1つの主題歌に決めてしまうと、 結末が持つ感情と違和感が生じる場面が出てくるようになりました。それで、制作の過程からサウンドトラックにかなりこだわり、神経を遣いながら、何曲もの様々な曲を準備するようになっていったんですね。エンディングでの感情に合った曲を導入するようにしています。一方、メインのテーマ曲は主にドラマの中盤のメインシーンで集中的に使われることが多いんです。

ーーお二人のドラマではそれぞれ、テーマや設定、脚本家、キャスティングなど、どんな順番で決まって行くのでしょうか?

小田:私の場合、普段はテーマを考えてから作ることが多いですね。『ブラッシュアップライフ』はいつもと違う作り方で、脚本家のバカリズムさんと設定を考えるところから始めました。テーマはないのですが、会社を通すための企画書には「女の人生はいろいろ、結婚する人生があったり、子供を持つ人生があったり、恋に溺れる人生があったり、そんな人生を何度もやり直すみたいな企画」などと書いたんですよ。全然違うんですよね(笑)。結果、会社的には「面白かったから別にいい」という感じでしたが(笑)。

イ・ミナ:最初に提出した企画から全く別の作品になっているのは興味深いです。

小田:設定を作って、バカリズムさんが脚本を書いているうちに、バカリズムさんの中で「人生をやり直すとき、意外と前の人生を気に入っていた人は、同じような人生を繰り返すんじゃないか」という話になり、「平凡だと思っていた日常が一番愛しい」というテーマに最終的に行き着いたんです。

イ・ミナ:韓国ドラマでは一般的に、①テーマ、②設定、③脚本、④キャスティングの順番で作られていきます。 とはいえ、企画の段階からイメージに合う俳優が浮かべば、その俳優に合わせた脚本の修正を行ったり、キャスティングが同時進行で行われたりすることもあります。オリジナルの場合はそれが可能ですが、『梨泰院クラス』のように原作があるケースでは、主題と設定が最初から明確にあるので、Webtoonの原作を俳優にまずは読んでもらう。そうすることで、俳優もイメージがつかみやすく、先の展開への理解も高まると思うので、脚本と同時進行で行われる場合もあります。また、映像化にあたって脚本になかった部分を補わなければならないこともあります。原作がある場合、またはオリジナルの場合、それぞれケースバイケースで順番は少し入れ替わりますが、作品の性格に応じて順番が決まることが1番多いですね。

ーーいろんな要素の中で、ドラマにとって1番重要な要素は何ですか?

小田:私は圧倒的に脚本だと思います。ドラマ作りに関わる人はたくさんいますが、それを引っ張っていくのも、道しるべになるのも脚本だと思うので。昔はキャストでドラマを観る人が多かったと思いますが、今はキャストのネームバリューより、脚本が面白いものが最終的に評価されていると感じます。


イ・ミナ:韓国も似通った傾向にあると思います。俳優の認知度よりも、多少俳優が知られていなかったとしても、演技力が素晴らしければ良いと考える傾向はあります。私も小田プロデューサーと同じく、シナリオは最も重要な要素であることは間違いないと思います。ただ、私の場合、ドラマが描こうとしているテーマが、より重要であると考えています。名作と呼ばれる多くのドラマには、テーマがきちんと描かれていたり、 何かしらのメッセージが込められたりしている作品が多く、そうした作品は長く人々の記憶に残り、価値が認められると思うんですね。そのため、例えば監督やプロデューサーの求める基準にシナリオが至っていなくとも、シナリオの完成度は6割ほどあれば、残りの4割は携わっている人たちが一緒にその欠けている部分を共同作業で埋めていくこともできると思っています。一方、そのドラマが描こうとしているテーマや方向性が一貫していないと、ドラマがどの方向に進んでいくのか、道を見失ってしまうことになってしまう。そのため、テーマや方向性については、私はより深く考えを巡らせる方だと思います。

小田:日本のドラマ作りはプロデューサーと監督と脚本家が内容を詰めていって、例えば10話を同じ1人の脚本家さんが書くことが多いですが、他の国ではもっと本数が多くて、何人かの脚本家さんがチームで書くことが多いと聞きます。そうした場合、テーマがしっかりしていないと、脚本家さんの性格や大事にしているものが違うから、一貫性がなくなってしまうのだと思います。日本の場合は、 1人が書き切ることが多い分、作家の中に書きたいものがしっかりあって、私たちプロデューサーや監督と一緒に、その気持ちを共有しながら、ブレないものを作っていく。ただ、このやり方には私も限界があるなと思っていて。例えば30本の話を作るみたいな話だと、1人で書くのは相当な時間を要しますし、テーマをみんなで固めないと一貫性が保てないと思います。

イ・ミナ:韓国も、どんなに長いドラマであっても、日本と同じく基本的には1人の作家が最後まで書き上げるという作業をしているんですよ。

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