『翔んで埼玉』“日本埼玉化計画”は実際に進行中? ダメなところも見つめてこその郷土愛

ダメなところも見つめてこそ本当の郷土愛

 数々の自虐ネタが放り込まれている本作だが、それでも根底にあるのは「郷土愛」である。

 というより、これだけの自虐ネタに耐えうる感性は、愛がなくては育めないものだと思うのだ。実際、長所ばかりを取り上げて「〇〇すごい!」とはやし立てる連中の方が自尊心の低さを隠そうとしているのであって、ダメな部分を自ら開陳できるのは、みしろ地元への自信と揺るぎない信頼がないとできないことではないだろうか。

 そう考えると、本作は埼玉県民の愛の強さを描いた作品とも言える。むしろ、上の文章でちょっとむきになって神奈川推ししている筆者の方こそ愛が足りないのではないか、そんな気もふとするのだ。

 神奈川にもダメなポイントがたくさんある。神奈川県警とか。むしろ本作でこのポイントがディスられなかったのが不思議なくらいだ。きちんと自らの帰属意識を持てる地域のダメな部分も直視していくことが本当の郷土愛だと、この映画は教えてくれるのだ。

“日本埼玉化計画”は実際に進行中か

 そんな本作でも特に興味深いのは「日本埼玉化計画」の存在だ。個性のない埼玉のあり様を全国に広げようというこの計画は、現実にも進行しているような気がしてならないからだ。

 実際、どの地方の国道沿いを走っても同じようなチェーン店やショッピングモールばかりが並んで、どこもかしこも風景が没個性的になっている。そうしたチェーン店は生活を便利にしてくれる良い面もあるが、地域ごとの特性を奪っているのではないか。埼玉は実際、個性はないけれど住むには結構便利なところだ。

 あのサイゼリヤの本社も埼玉県吉川市にある。安くて美味しくて手軽なサイゼリヤは筆者もよく利用する。何を隠そうこの原稿も、サイゼリヤのドリンクバーを飲みながら、無料Wi-Fiに接続して書いている。

 そして、筆者が一番よく利用するスーパーマーケットも実は、埼玉発祥のベルクだ。家から一番近いスーパーなんだからしょうがないのだ。

 ともかく、そんな風に自分の生活を振り返ると、そこら中に埼玉が蔓延していることに気が付かされる。現代人の中には筆者も含め、埼玉発祥のチェーン店なしには生活できない人も多いのではないだろうか。いつの間にか、あなたも「埼玉化」しているかもしれない。この映画は、そのことに気づかせてくれる。

■放送情報
『翔んで埼玉』
フジテレビ系にて、11月18日(土)21:00~23:15放送
出演:二階堂ふみ、GACKT、ブラザートム、麻生久美子、島崎遥香、成田凌(友情出演)、中尾彬、間宮祥太朗、加藤諒、益若つばさ、武田久美子、麿赤兒、竹中直人、伊勢谷友介、京本政樹ほか
原作:魔夜峰央『このマンガがすごい!comics翔んで埼玉』(宝島社)
監督:武内英樹
脚本:徳永友一
音楽:Face 2 fAKE       
主題歌:「埼玉県のうた」はなわ(ビクターエンタテインメント)
©2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

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