朝ドラ『ブギウギ』趣里と草彅剛の黄金コンビが誕生 才能を引き出した松永の名采配

 『ブギウギ』(NHK総合)第6週「バドジズってなんや?」は、のちに“スウィングの女王”、“ブギの女王”と呼ばれるスター歌手と昭和を代表する作曲家の出会いのエピソードである。

 上京したスズ子(趣里)は、さっそく羽鳥善一(草彅剛)から歌の手ほどきを受ける。歌うのは「ラッパと娘」。ジャズのスウィング感が印象的なナンバーだ。譜面を渡されたスズ子は、羽鳥の伴奏に合わせて歌い始める。だが、演奏の手を止めた羽鳥は「楽しくなくちゃ」と言って、何度も出だしから繰り返させた。

 羽鳥が求めるものに答えられないスズ子。第29話では、ついに羽鳥から「本番もう少しだよ。大阪帰る?」と言われてしまう。「君は一体どんな歌手になりたいんだい?」との質問に、スズ子は大和(蒼井優)みたいになりたいと答える。これに対して、羽鳥は「福来くんは福来スズ子を作らなきゃいけないんじゃないかな」と考えを述べ、「僕は福来くんが最高に楽しく歌ってくれれば、それでいいんだけどね。今、楽しいかい?」と問いかけた。

 楽しいわけがない。歌っても歌っても、すぐそばから否定される。不安になって当然だ。笑顔の羽鳥は松永(新納慎也)によると「笑う鬼」で、音楽に対して妥協を許さない人物だった。声を枯らしたスズ子を、松永は「ここで簡単にくじけてはいけないよ」と励ました。自信をなくし、好きだった歌も、羽鳥も「大嫌いになりそう」と言うスズ子に、松永は「それでいいんじゃないか」とアドバイスする。

 スズ子の悩みは、ジャズのフィーリングがつかめないことである。松永はスズ子の思いを受け止めた上で、羽鳥に対する感情をそのままぶつければいいと示唆した。松永の助言は、ジャズがニューオーリンズの雑踏で生まれた、民衆の“肉声”に由来する音楽であることと関係がある。しかし、それをいちいち講釈したりはしない。松永はわかっているのだ。スズ子の歌手としての天分と羽鳥の才能、両者を結び付けるために何が必要なのか。わかってあえて口出しせず、2人を信頼し、生まれてくるものをじっと待っていた。

 「毒でも食べちゃいそう」なスズ子の素直さを褒め、チョコレートで心を満たしてくれる松永。前話の秋山(伊原六花)との会話で、キスはチョコレートの味というリリー(清水くるみ)の言葉に胸をときめかせたスズ子には、夢のような時間だった。憧れの人から自身を肯定されたスズ子は、羽鳥に向かっていく勇気が出ただろう。甘い余韻を心に抱いたスズ子は、その晩、羽鳥の家を訪れた。

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