『下剋上球児』“野球”だからこそ描けることとは? 塚原あゆ子監督に聞く撮影の裏側

試合にアニメーションを使用した理由

――登場人物がたくさんいて、それぞれに愛着が湧くような描き方は難しいと思います。そのあたりで心がけていることはありますか?

塚原:似たようなキャラクターがいっぺんにでてくると、ちょっと見づらいと思う方がいると思うんです。私自身がそうなので、“球児たちと鈴木さん”というのが第1話の自分なりの撮り方で、あまり球児のワンショットは抜かないようにしました。第2話では、試合に出られなかった野原くん(奥野壮)やサッカー部の久我原くんを(野球部の)外側のキャラクターとして描くことで覚えやすくしたりと計算していますが、第3話以降は一人ひとりにガンガン寄っていきます。下剋上を果たす彼らの成長物語でもあるので、「自己肯定感を高めて月曜日への元気をもらってください」というメッセージも込めて、彼らが先生と呼応するように強くなっていくときには、どんどんワンショットを抜いていこうかなと思っています。

――本作を作る上でのこだわりも教えてください。

塚原:私は陸上部出身ですが、「もっと速く走れたらいいのに」と想像したときに、それは自分ではなくどこかのヒーローなんです。『SLAM DUNK』を観てから日本代表のプレーを見ると、カッコいいシーンを自分の脳がアニメ化するんですよね。この作品では、その瞬間の美しさとか、「もうちょっと速く走れたら、みんなのためになれる」という想いが一歩前に出るような瞬間を捉えたくて。その(ヒーローと実際の技量の差に対する)違和感が、最終回に向けて徐々に馴染んでいくように作っていこうかなと思っています。

――試合中にアニメーションが入るのも特徴的ですが、どんな狙いがあるのでしょうか?

塚原:たとえばホームインする瞬間はこれからもたくさん出てきますが、毎回違ったかたちで撮るのは難しいんです。どうしても同じことをやっているように見えてしまうので、アニメにすることで違う味わいにできるんじゃないかと。そこに今回は、“彼らがなりたい一歩先の偶像”がチラ見えするかたちで描いてもらうことにしました。アニメーションは石浜真史さんにお願いして、カット割りはセッションしながらやっています。石浜さんの世界にいる高校球児のきらめきと、私にできるスーパースローやワイヤーカメラ、ドローンを使った撮影の接点がちょっとずつ馴染んできて、最終回までに彼らがアニメの世界に追いついていく、という流れにしたくて。また映像表現の新しいかたちに挑戦するという意味でも、石浜さんとやってみたいなと思っていました。

――ここまでの手応えは?

塚原:私はとにかくスポーツに疎いですし、漫画の実写化はとても難しいと思っているところがあって。なぜなら、漫画やアニメの世界に追いつくのは無理なんです。バレーボールとかも3、4秒止まって、心の声を連発しますけど、それをスローで撮ると嘘くさくなるんですよね。いろんな意見があると思いますが、私はやっぱりアニメーションの力を借りたいと思ったし、こうでもしなければ描けなかったかなと思います。たとえば3年生の投げる球には「この夏の終わりのさま」を描かなきゃいけないけれど、誰が投げても球は球なんです(笑)。だから、その果敢な挑戦を見守っていただけると助かります。

――鈴木亮平さんの現場での様子についても教えてください。

塚原:本当に「先生」「監督」のようで、朝、現場に入るともうノックしています(笑)。第2話をご覧いただくとわかりますが、南雲先生は完璧な人間では決してなく、ずるいところもある生っぽい人間なんです。人生、何も間違わない人なんていないので、その罪をどう償い、どういう大人の背中を見せていくか。それをここから描いていきたいと考えたときに、まさに毎日、(生徒役のキャストたちに)背中を見せていて、芝居の仕方も直接口で言うというよりは、見せていく感じですね。あとは、球児と話している私に向かって「このシーンの読み方、俺はこうだったよ」と話してくださるので、「そういうふうに読めばいいのか」と球児たちは鈴木さんを見ながら学んでいるはずです。「自分も許せ、他者も許せ」と自己肯定感をお互い高めていく生き方が問われる今、鈴木さんもおっちょこちょいなところがあるので(笑)、そういうところも含めて「見せてもらっているな」と感じています。

――鈴木さんならではの魅力はどこに感じますか?

塚原:完パケを渡しても、オンエアでしかご覧にならないんです。球児たちはすぐに観て感想を話しに来ますが、鈴木さんだけが置いてかれていて(笑)。自分の出演作を一生観ないという方もいらっしゃいますが、オンエアでしか観ないという方は初めてです。おそらく役者としてではなく、視聴者としてご覧になりたいという意味合いがあると思うので、そんなところが素敵だなと。だから鈴木さんは、視聴者のみなさんと一緒にワーワー言ってるんだろうなと思います(笑)。

――最後に、第3話の見どころをお願いします。

塚原:南雲先生の告白が、どう彼らの夏に影響していくのか。山住先生(黒木華)も含め、先生が生徒たちにどういう背中を見せていくのか。そして、球児にとっては「一回負けたら終わり」という暑い夏が始まるので、第1回戦を楽しみに待っていただけたらと思います。彼らがポンコツなりに必死に練習していくさまを、視聴者のみなさんと共有してきて初めての夏。日沖のお兄ちゃんはそこで引退していきますので、引退の夏を見送っていただければと思います。

■放送情報
日曜劇場『下剋上球児』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:鈴木亮平、黒木華、井川遥、生瀬勝久、明日海りお、山下美月、きょん(コットン)、中沢元紀、兵頭功海、伊藤あさひ、小林虎之介、橘優輝、生田俊平、菅生新樹、財津優太郎、鈴木敦也、福松凜、奥野壮、絃瀬聡一、鳥谷敬、伊達さゆり、松平健、小泉孝太郎、小日向文世
原案:『下剋上球児』(カンゼン/菊地高弘著)
脚本:奥寺佐渡子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子、山室大輔、濱野大輝
編成:佐藤美紀、黎景怡、広瀬泰斗
製作:TBSスパークル
©TBSスパークル/TBS(撮影:ENO)
©TBSスパークル/TBS :Len
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/gekokujo_kyuji_tbs/
公式X(旧Twitter):@gekokujo_kyuji
公式Instagram:@gekokujo_kyuji
公式TikTok:@gekokujyo_tbs

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