『PLUTO』がいま映像化された意義とは? 丸山正雄Pが受け継いだ手塚治虫のDNA

 アニメ『PLUTO』が10月26日からNetflixにて独占一挙配信が開始された。2003年から2009年にかけて連載された本作は、手塚治虫の漫画『鉄腕アトム』の名エピソードである『地上最大のロボット』を浦沢直樹がリメイクしたSF漫画だ。ロボットが普及した近未来を舞台に、刑事ロボット・ゲジヒトが、世界最高水準のロボットたちが次々と破壊される事件を追うミステリーテイストの物語は、多くの反響を呼び、数々の漫画賞を受賞。そして連載終了から14年を経て、ついにNetflixでアニメ化された。

 このたび、リアルサウンド映画部では『PLUTO』のプロデュースを担当した丸山正雄にインタビュー。丸山は手塚治虫が設立した虫プロ出身で、これまで浦沢直樹の『YAWARA!』『MASTERキートン』『MONSTER』といった人気漫画をアニメ化してきた。

  そんな丸山にとって手塚作品を浦沢がリメイクした『PLUTO』のアニメ化は悲願と言えるプロジェクトだった。完璧な漫画ゆえに映像化が難しいと言われた『PLUTO』をアニメ化するにあたり、丸山はどのような気持ちで作品に挑んだのか?(成馬零一)

完成されている浦沢直樹作品を映像化する難しさ

丸山正雄プロデューサー

ーー『PLUTO』のアニメ化はいつ頃からスタートしたのですか?

丸山正雄(以下、丸山):ずいぶん長い間、関わっていたような気がします。初めは今の日本のアニメーションで『PLUTO』の世界を再現できるのかと不安でしたが、同時にやる気もすごく感じていました。

ーー手強い作品でしたか?

丸山:元々、新しいことに挑戦することが好きで、挑戦できるというだけで嬉しくなっちゃうので、意欲は満々だったのですが、それは10年前のまだ若かった頃の気持ちですね。何より心配だったのは、気力と体力の問題です。スタッフを引っ張って、どこまでいっしょにやっていけるのか。「せいぜい70代までで、80代は無理ですよね」と思っていたのですが、結局、完成した頃には82歳になっていました。

ーー連載当時の『PLUTO』の印象を教えてください。

丸山:正直に言うとお話はよくわからなかったですね。ミステリアスなストーリーを描こうとしているのはわかるのですが、どこに着地するのかが見えなかった。同時に、手塚原作を踏襲しながら、ここまで踏み込むのかと、驚きながら読んでいました。

ーー僕も『鉄腕アトム』を浦沢さんのタッチでリメイクしていく面白さは理解できたのですが、話は難しくて連載当時はうまく理解できませんでした。ですが、2023年現在、改めて『PLUTO』を読み返すと、これは今の時代の話だなぁと思ったんです。

丸山:漫画連載の時代はイラク戦争が背景にありましたが、ウクライナ侵攻やAIのことが描かれているようにも読めるので、今、連載が始まったと言われても納得できる内容なんですよね。『PLUTO』はいつの時代でもアクチュアルで、ロボットと人間の関係がどのように変わっていくかという「永遠の問題」を取り上げていくということはすごいことです。

ーーこれまで丸山さんは、浦沢さんの漫画をアニメ化してきましたが、浦沢さんの漫画は、「アニメ化しやすい」のでしょうか?

丸山:浦沢さんの作品のアニメ化は難しいですね。まずキャラクターが難しい。まったく違った画に変えるのであれば別ですけれど、浦沢さんの画を描ける人はアニメ業界でも、うまい人に限られている。今回の『PLUTO』は、原作通りのビジュアルにするというのが最大のテーマでしたので、今まで浦沢作品に関わっていたスタッフをどうやって動員してやるのかというのが、一つのテーマでした。

ーー漫画の完成度が高すぎるので、要素を足すのも引くのも大変そうですね。

丸山:漫画として完成されているので「アニメにする意味がないと思います」と、浦沢さんには一度、お断りしたんですよ。どんなにがんばっても、漫画より良くないと言われるのがわかっているので「損なレースはしたくない」と言ったら、「いや、アニメになったら音楽が流れてくるし画面に風が吹けば木が囁く音が聞こえてくるし、声で芝居をやってくれる。そういう面白さが出てくるから」と浦沢さんから言われて。ただ、それはちゃんと映像化した場合ですので。

ーー音楽は『PLUTO』の重要な要素ですね。

丸山:大きいですね。劇伴については菅野祐悟さんとイメージを膨らませていったのですが、ポイントポイントで浦沢さんとも意見をやりとりしました。音楽にはうるさい原作者だったので(笑)。

ーー劇中で音楽が重要な役割を果たす場面がありますが、浦沢さんの中には音楽のイメージは漫画の時からあらかじめ、あったのでしょうか?

丸山:大体のイメージはあったそうです。ある曲では最終的に浦沢さんがデモを作ってくれたものです。

ーー各話の最後に流れるエンディングテーマを聞くと凄くモダンで、手塚治虫の世界だなぁ思いました。

丸山:浦沢さんは手塚さんの世界観をとても大事にされていました。ロボットのデザインを、いかにも最近のデザインのものに変えようとした時も「これはガンダム以前のロボットで描いてくれ」「関節はないから、こういう風には動かないんだ」と、しっかり叱られました。

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