『ブギウギ』が一貫して描く“続けることの難しさ” 『エール』でも描かれた世界恐慌の影響
ヒロインのスズ子(趣里)が18歳となった連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK総合)第3週。この週で一貫して描かれているのは、「続けることの難しさ」だ。
スズ子がまだ梅丸少女歌劇団(USK)の研修生だった頃、憧れの娘役・大和(蒼井優)から「お客様はね、現実から離れたくて劇場にいらしてるの。そのお客様に、私たちは一瞬でも現実を感じさせちゃダメ」と言われたことがある。その言葉通り、現実を忘れるほどに華やかなUSKのレビューショーは日々練習や準備に勤しんできた劇団員やスタッフの泥臭い努力の積み重ねで成り立っており、観客が見ているのはその上澄みでしかない。けれど、エンターテインメントとはそういうものなのだろう。一時の歓声と拍手を浴びるために延々と誰に褒められるでもなく地道に努力できる人しか、生き残れない厳しい世界。
一方で、努力だけではどうにもならないこともある。例えば、スズ子の同期である桜庭(片山友希)は花咲歌劇団から移籍してきた後輩・秋山(伊原六花)の圧倒的な才能を前に打ちひしがれ、USKから去る決意をした。だが、彼女に努力する気持ちが足りなかったと断ずることはできない。秋山とは男役同士(年齢も近そうだ)だから比較されやすい立ち位置にいるし、家庭が貧しく母親も病弱。スズ子には家に帰れば愚痴や悩みを聞いてくれる両親や常連客がいるけれど、ただでさえ大変な家族に桜庭は弱音を吐けるだろうか。夢を叶えるためにはもちろん努力も大切だけど、才能も環境も運もタイミングも縁も必要だ。惜しくもそのどれかが足りなくて夢を諦めた人たちに、本作は「一番好きなことを辞めるのは勇気がいる」というスズ子の父・梅吉(柳葉敏郎)の台詞で寄り添う。好きなことを続ける人も、続けられなかった人も責めない、優しさに溢れた台詞だと思った。
しかし、スズ子の言葉で諦めきれない気持ちに気づいた桜庭は劇団を続けることに。そんな彼女にまたも辞めざるを得ない理由を与えるのが、1929(昭和4)年に始まった世界恐慌だ。1929年にアメリカの株価が暴落したことをきっかけに起きた世界的な不景気で、日本も痛烈な打撃を受けて多くの銀行や会社が倒産。街中に失業者が溢れ、どうにか仕事を失わずに済んだ人も賃金を削減されるなど、社会不安が一挙に高まった。『おしん』(NHK総合)ではヒロイン・おしん(小林綾子)の2つ目の奉公先である米問屋が経営不振で倒産したり、『カーネーション』(NHK総合)ではヒロインの糸子(尾野真千子)自身が勤めていたパッチ店をクビに、『エール』(NHK総合)では主人公の裕一(窪田正孝)が作曲コンクールに入賞したことで手に入れたイギリス留学の権利が白紙になったりと、過去の朝ドラでもその影響が描かれている。
本作では、USKを運営する梅丸株式会社も不況のあおりを受けて、一部の楽団員と新人の劇団員を解雇せざるを得ない状況に。スズ子たち同期は残留となったが、給料を減らされた桜庭は劇団を続けることができなくなった。そんな中、仲間のために立ち上がったのが、二大トップスターの大和と橘(翼和希)。2人は解雇と減給の撤回を求めて会社に嘆願書を提出した。だが、会社が一時金を餌にした懐柔作戦に出たことで大和はストライキを決意し、大熊(升毅)と最後の話し合いに出る。