趣里が『ブギウギ』で見せる感情表現の豊かさ 多角的なアプローチによるスズ子像に期待

 とはいえ、俳優としてまだ10数年しか活動していない趣里。だがかつての朝ドラのヒロインは新人俳優を起用していたこともあるため、彼女の場合は十分な現場経験を経て主演を務めるに至ったともいえる。キャリア初期の代表作である『おとぎ話みたい』(2013年)ではプロのダンサーに憧れる少女が夢と恋のはざまで揺れるさまを体現し、一時間に満たないインディペンデント映画でありながら大きな反響を呼んだ。心の揺れの繊細な表現と大胆な身体の表現はこの頃から見事なものだった。

 2018年公開の『生きてるだけで、愛。』では、社会にうまく適応できない女性を妙演。激情をほとばしらせる際の声と身体のパフォーマンスが素晴らしく、それでいて等身大の姿は多くの映画ファンの胸を打った。心身ともに大変な負荷のかかる役だったはずだが、趣里は完全にモノにしていた。

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 彼女が俳優として優れている点として感情表現の豊かさはもちろんあるが、やはり趣里は身体表現が抜きん出て優れている。それは『ブギウギ』の第1話にも収められていたとおりであり、こちらの期待を煽るものだった。彼女の優れた身体表現は、俳優になる以前に打ち込んでいたクラシックバレエの経験に裏打ちされたものだろう。

 表情や声による表現は映像のほうがむしろはっきりと分かるものだが、身体に関しては生で見てこそどれくらい優れているのかが分かるもの。舞台『オレステスとピュラデス』(2020年)で趣里がY字に脚を振り上げているのを実際に目にしたが、その軽やかさな身のこなしに心を奪われたのを覚えている。筋トレによる男性俳優の肉体改造ばかりがなぜか注目されるが、柔軟性の維持だって非常に大変だ。誰だって年齢を重ねれば身体は退化/硬化していくのだから。いくつもの役を生きてきた俳優としての経験と、磨き上げられた身体ーー趣里の内面的なアプローチと外面的なアプローチによって立ち上げられるスズ子像に期待だ。

 2023年は映画『零落』で物語の行方を左右する最重要人物を演じていて、『愛にイナズマ』では出番が短いながらも作品のアクセントとなる役どころを担っている趣里。主演を務めた塚本晋也監督の最新作『ほかげ』の公開も控えている。残すところあと約3カ月ではあるが、今年は趣里の年なのかもしれない。まずは毎朝の『ブギウギ』を丁寧に追っていこう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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