『スパイキッズ:アルマゲドン』の突出した点を解説 ロバート・ロドリゲスが託した希望

 しかし、自分たちがヒーローとなる世界を経験した子どもたちは、最終的には自分たちがトップに立てる環境を捨てて、「世界全ての人がゲーマーになんてならなくていい」という精神的な境地へとたどり着く。ゲームのことで頭がいっぱいだった子どもが、世の中にはそれ以外の価値観を持ってそれぞれの人たちが生きているということを受け入れるのである。むしろ、その寛容さこそが自分たちの自由をも守る姿勢だとでも言わんばかりに。

 ここでは、子どもが子どもとして肯定されることで、むしろ成長が促されるという展開を描いているのではないか。家族が子どもを社会的に何の力もない存在だとして否定的に扱えば、子どもは大人の世界に挑戦しようという気持ちが削がれ、成長しようという意識が鈍ることになるかもしれない。しかし、本作の両親たちは決して子どもを否定することはない。だからこそ、子どもたちは自信を持って自分たちの考えを堂々と主張し、自主性が育てられていったのではないか。それについては、本作の悪役すら認めるところなのだ。

 このように、子どもたちがある役割を与えられ活躍できる場を手に入れたり、存在を肯定される居場所さえあれば、積極的に社会にかかわり、充実した日々を過ごせるようになるのではないか。この点は、子どもだけでなく、大人たちも同じところがあるといえるだろう。

 本作で最もケッサクなのは、スパイの両親が過去に敵の基地に潜入し、悪漢を倒し基地を壊滅させたという武勇伝を、幼いパティが否定する場面だ。彼女は、「丁寧に頼めば基地に入れてくれたかもしれない」、「基地のインテリアを褒めたり、ダンスを踊って良い気分にさせてあげられたかもしれない」などと、代案を提示するのである。それはある意味で、多くのスパイ映画の否定ともとらえられる。

 もちろん、武力を持つ悪漢がそんなことで平和的に投降するわけはない。だが、そう考えてしまうのは、われわれがどこかの時点で大人たちの作ってきた世界の常識を受け入れてしまったからなのではないか。世界の人々がそのように優しく振る舞い、愛情を示すことが常態化していかなければ、現実に存在する争いごとや戦争は解決に向かうことはないのかもしれないのである。その意味において、本作で子どもたちが世界を救うといった展開には必然性があるといえるはずだ。ロドリゲス監督は、新たな世代の新たな発想が世の中を改善してほしいという希望を、本作に託している。

 子どもにとってあまりにも都合が良過ぎる、途中までのストーリー展開を目の当たりにしたときは、実際どうなることかと思ったりもしたが、本作の終盤では、子ども独自の考えや価値観を否定しないかたちで、子どもならではの美点や、成長を描くことで、全体の帳尻を合わせながらたたみかけることに成功しているのだ。このようにターゲットの観客を惹きつけながらバランスをとるテクニックには目を見張るものがあるといえる。そこには、『スパイキッズ』シリーズをロドリゲス監督自身が続けてきた、長年の経験が活かされているのだろう。

■配信情報
『スパイキッズ:アルマゲドン』
Netflixにて配信中
監督・脚本:ロバート・ロドリゲス
出演:ジーナ・ロドリゲス、ザッカリー・リーヴァイ、コナー・エスターソン、エヴァリー・カーガニーラ
Lauren Hatfield/Netflix ©2023

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