『沈黙の艦隊』親しみやすい映画独自のアレンジ 一方であがる少なくない不満の正体

「“序章”で終わってしまう」物足りなさ

 反面、本作に不満の声があがるわかりやすい理由は「物語が“序章”で終わってしまう」ことだ。単行本にして32巻もある原作の序盤を丁寧に描き、物語をいったん切り上げるには確かに「ここしかない」とも思える幕切れになってはいるが、それでも「不完全燃焼」「中途半端」といったネガティブな声もまた納得できてしまう。それが映画そのものの評価が伸び悩む理由に直結しているのは、かなりもったいない印象があった。

 くしくも、2023年は「続編に続く」と示され、待たされてしまう大作映画が多い。『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』『キングダム 運命の炎』がそうだ。それでもこれらはクライマックスでの大見せ場のおかげもあって「区切り」としては納得しやすかったが、今回の『沈黙の艦隊』はそれらより未消化と呼べる要素が多く、ラストのカタルシスにもやや乏しい印象も持った。

 個人的には、クライマックスで原作から大胆なアレンジをしてでも、1本の映画として満足度を高くする工夫をしてほしかった、というのが正直なところだ。

吉野耕平監督の続投を希望

 本作はAmazonスタジオが初めて製作した「劇場公開される日本映画」でもある。現時点で続編の製作などは発表されておらず、今後は続編となる映画またはドラマシリーズがPrime Videoでのみ提供される可能性もあるが、個人的にはぜひ劇場公開を続けてほしいと願う。今回の映画だけでも、序盤から観客に“音”へ聴き入ってもらう演出があるし、潜水艦同士の緊張感のある戦いも含め、映画館で観てこそ真に“体感”できる作品だと思えたからだ。

 本作のプロデューサー陣は、2022年公開の『ハケンアニメ!』の映像表現と面白さを知って、吉野耕平監督にオファーをしたという。なるほどケレン味がありながらもどこかダウナーで落ち着いた演出は、“水面下”で静かだが時に大胆な展開のある今回の潜水艦バトルとも相性が抜群だった。その采配は見事であるし、出来上がった映像そのものが「劇場で観る」ことを前提としていると感じたので、やはり吉野耕平監督が続投する映画が観たくなる。

 また、プロデューサーも兼任している大沢たかおは初日舞台挨拶にて「この先、どうなるんだよと思われる気持ちも痛いほど感じています」と告げており、やはり物語が“序章”で終わってしまうことを気にしていたようだ。それでも「余すところなく描くため、この映画をどんどんやっていけるよう期待して待っていてほしい」と続編への意欲を示している。今はただ、この言葉を信じてみるのがいいだろう。

■公開情報
『沈黙の艦隊』
全国公開中
出演:大沢たかお、玉木宏、上戸彩、ユースケ・サンタマリア、中村倫也、中村蒼、松岡広大、前原滉、水川あさみ、岡本多緒、手塚とおる、酒向芳、笹野高史、アレクス・ポーノヴィッチ、リック・アムスバリー、橋爪功、夏川結衣、江口洋介
原作:かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』(講談社)
プロデューサー:大沢たかお、松橋真三
監督:吉野耕平
脚本:髙井光
音楽:池頼広
主題歌:Ado「DIGNITY」(ユニバーサル ミュージック)/楽曲提供:B’z
製作:Amazon Studios
制作プロダクション:CREDEUS
協力:防衛省・海上自衛隊
配給:東宝
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公式サイト:silent-service.jp
公式X(旧Twitter):@silent_KANTAI

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