『シャイロックの子供たち』井ノ原快彦が“理想の上司”を体現 池井戸潤の“原点”がここに

『シャイロックの子供たち』は池井戸潤の原点

 社会現象を巻き起こした『半沢直樹』(TBS系)から、2023年7月期にテレビ朝日系列で放送された『ハヤブサ消防団』に至るまで、この10年ほどの間に著作が次々と映像化されている池井戸潤作品の旨味は、大勢の登場人物たちの人間模様の描き込みの巧さと、ベースにあるミステリー要素などのストーリーテリングが王道であり続けること。つまりは、原作小説のすべてを取り入れることが難しい映画化・ドラマ化などの映像化においても、“池井戸カラー”が微塵も欠けることなく維持されることにある。

 そういった点と、池井戸作品に限らず様々な小説作品を独自のカラーをもって映像化してきたWOWOWの「連続ドラマW」のチームの手腕が組み合わされれば、原作小説の良さを超えた特別なものに昇華できることはいうまでもない。現に「連続ドラマW」では、『半沢直樹』で大ブームが起きる前から池井戸作品を扱ってきており、2022年10月に放送された『連続ドラマW シャイロックの子供たち』で6作目のドラマ化となる。単に流行りに乗じたのではない“相性の良さ”が、確実にそこにあると作品を重ねるごとに証明している。

 池井戸作品の“原点”ともいわれている『シャイロックの子供たち』は、とある銀行の小さな支店で起きた行員の失踪事件と現金紛失事件を軸にしながら、その支店で働く行員たちの複雑な人間模様や銀行特有の厳格な体質のなかで押し潰される人々をそれぞれの視点から描いた群像劇だ。

 言わずもがな、元銀行員という経歴をもつ池井戸ならではの描写が生かされており、奇しくも今回の「連続ドラマW」版に近いタイミングで阿部サダヲ主演の映画版も制作されたのだが、そちらはかなり映画オリジナルの展開に振り切っている。原作小説と「連続ドラマW」版、そして映画版と、同じ題材でありながら3つとも異なるテイストを放っているのだからやはり池井戸作品の奥行きは計り知れない。

 「episode0」と銘打たれた第1話は明確なプロローグに徹している。この時点で、よくある連続ドラマの導入部分とは似て非なる切り口で、“これからのエピソードで描かれるできごと”の複雑さを物語っていく。井ノ原快彦演じる東京第一銀行長原支店の営業課課長代理・西木雅博が失踪(よくよく考えてみれば、いきなり主人公が失踪してしまうというのもあまりない展開だ)。銀行本部の人事部に勤める坂井(玉山鉄二)が支店の行員たちに聞き込みを行ない、西木の部下・北川愛理(西野七瀬)の「事件に巻き込まれたんではないでしょうか」の発言から、一気にミステリー色が強まり本筋へと遡る。

 なぜ西木は失踪したのか、長原支店にある様々な問題とは何か、そして西木の行方。この3つのミステリーを軸にして、「episode1」から「episode4」までの4話で一気に畳み掛けるようにドラマが展開していく。それぞれのキャラクターが何を抱えているのか、そうした全体像が見えてきた最終話前にもう一度「episode0」を遡ってみると、最初に観たときと異なる印象を抱けるという仕掛けもまた興味深い。

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