『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』は“革命的”作品 その凄さを解説

 アメリカンコミックやTVアニメ、実写映画をはじめ、その他複数のメディアで、1980年代より今日まで展開され続けている『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』。この人気作を、制作手法の面でも、設定や物語の内容でも一新させた、ニコロデオン・ムービーズ制作の劇場アニメーション『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』が公開されている。

 日本でも人気のある題材であるだけに、大きな期待がかけられた一作だが、本作『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』は、それを大きく上回る、数少ない“傑作”であるばかりか、“革命的”とすらいえる驚きの出来となっていた。ここでは、そんな本作の何が凄いのかを解説していきたい。

 コミック『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』は、DCやマーベルのような大手コミック出版社の作品ではなく、もともと作者たちが同人誌として自ら小規模出版した作品だった。しかし、突然変異で人間のサイズになった若い亀たちが、ニューヨークでカンフーを披露しながら悪党と戦うという、ユニークでキャッチーなアイデアは好評を博し、異例ながら歴史的な位置を占めるコミック作品へと成長していった。さらには、TVアニメや映画、ゲームなど、多方面に展開することにもなったのだ。

 なかでも、TVアニメ版で作品を知っている人は多い。筆者自身も、日本で1990年代から放送されていた『アイドル忍者タートルズ(邦題)』シリーズを楽しみに観ていて、タートルズのなかでもユーモアに溢れ、ピザを最も愛するミケランジェロがお気に入りのキャラクターだった。そして、作品を観ることで、アメリカ文化や、ニューヨークの雰囲気を間接的に理解する助けにもなった。もちろん、『タートルズ』は多くの派生作品が存在するので、人によって出会い方や、印象はさまざまだろう。

 本作『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』(以下、『ミュータント・パニック!』)は、こういった既存のファンが満足するような、当時からの設定が活かされ、「タートルズ」の4人、レオナルド、ドナテロ、ラファエロ、ミケランジェロ、そして育ての親であるネズミのミュータントのスプリンター、ロックステディやビーバップなどなど、お馴染みのキャラクターが次々に活躍する。

 とはいえ、その設定は微妙な変更が加えられている。もともと『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』の主人公たちは、そのタイトルからも分かる通り、“10代”であり、“ミュータント”であり、“忍者”らしき覆面や東洋の武術を使う者であり、“亀”であるという、設定の時点で情報の渋滞が発生しながらも大きな魅力を持っていた。

 だが、本作で製作、原案、脚本、声の出演までを担当しているセス・ローゲンは、タートルズが亀のミュータントである以上に、“「ティーンエイジ」であること”を第一とするというアイデアを提案したという。これによりタートルズは、それぞれに若さゆえの個性や乗り越えるべき課題が明確なものとなった。さらには、タートルズに協力する人間の仲間であるエイプリル・オニールが、ジャーナリスト志望の高校生に変更され、より応援し甲斐のあるキャラクターとなっている。

 彼らティーンエイジャーと対照的なのは、敵のミュータントであるスーパーフライだ。ラッパーのアイス・キューブが声を演じている、このファンキーなギャングのボスとしてのキャラクターは非常に威圧感があり、10代のタートルズが思わず萎縮してしまうのも無理はない。子どもと大人の中間の存在にある年代の課題は、多くの場合、親の影響から逃れて自身の生き方を見定めることではないか。そういう意味で、保護者のスプリンターの助けがなく、大人の象徴であるスーパーフライにぶつかっていく勇気を持つことになるタートルズの姿は、若者の普遍的なテーマに重ねられるものだ。

 ここで大車輪の活躍をしているのは、やはりセス・ローゲンだろう。第一線のコメディアンでもあるローゲンが脚本に参加しているおかげで、シーンごとにしっかり笑えて、その度にさまざまなキャラクターの魅力もアップしていく。日本のアニメーション作品では、なかなかこのようなアプローチがとられることは少ないが、笑いの専門家がユーモアを発揮することによって、観客はシーン全てを満遍なく楽しむことができる。

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