実写版『ONE PIECE』で土下座しない“令和ナイズ”されたサンジ キャラの本質を考える

 「人気アニメの実写化」という言葉に対して、つい敏感になってしまう視聴者は少なくない。かくいう筆者もその一人だ。しかし、現在Netflixで配信中のドラマ、実写版『ONE PIECE』はそのイメージを大きく覆した。尾田栄一郎が実写ドラマ版に製作総指揮として参加し、「実写版」としての細かいチューニングを成功させていることは、その大きな要因だ。実写版では、漫画や原作のコミカルな表現を抑え、各キャラクターのトーンも少し大人に。麦わらの一味の中で特にその影響が出ていたのがサンジだ。

 原作のサンジといえば義理堅く人情味に溢れた麦わらの一味のコックであり、「無類の女性好き」のイメージがある方も多いのではないか。仲間であろうと旅先で出会った種族であろうと「レディ」に甘く、そして男性には女性に比べ無愛想な一面を見せてきたサンジ。

 しかし、実写版では女性に対するサービス精神はそのままに、ジェントルで優雅な印象を与える「実写版サンジ」になっていた。大きなハートを目に描いてコミカルに女性の姿を追うような雰囲気は表現されず、男性嫌悪をするようなシーンも特に見当たらなかった。海外の視聴者や初めて『ONE PIECE』の世界に触れる人々を想定して、実写版では古いジェンダー観が垣間見えるシーンをソフトにしたのだろう。

 サンジの名台詞といえば、やはり海上レストラン「バラティエ」を離れる際、命の恩人であるゼフに放つ「長い間クソお世話になりました! このご恩は一生忘れません!」という台詞。実写化にあたり気になっていたのは、この場面でのサンジの「土下座」をどう表現するかという点だった。

 土下座は東アジアの文化であるが、厳密には最大級の「謝罪」を表す意味では日本独自の文化であり、他の地域では通じないことがある。実際、実写版ではサンジの土下座がカットされ、「涙を流しながら和やかに手を挙げる」という海外仕様の別れの演出となっていた。

 確かに実写版のジェントルなサンジが感謝を告げる場面で、日本の謝罪の文化である土下座をすることは、原作に忠実であっても海外の視聴者には不自然に感じられるかもしれない。序盤最大の感動のシーンだからこそ、そうした小さな引っ掛かりを丁寧に取り除く配慮を感じた。ちなみに実写版の吹き替えではアニメ版の声優陣をそのまま起用しており、サンジの声もアニメに引き続き平田広明が担当している。平田の実写版の役者に合わせた好演もまた、今回のサンジの良さを引き立たせていた。

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