『こっち向いてよ向井くん』が教えてくれた“自分”である大切さ 大きな向井くんの“一歩”

 向井くんが毎回、恋をしかけては別れてしまう女性たちにも、「それは本当にあなたがやりたいことですか?」という目線が描かれている。特に、3年前に一度だけ体の関係を持った原チカ(藤間爽子)と向井くんは、結婚を前提に付き合うことになるが、チカ自身もまた、「結婚とはこういうものである」という、周りの誰かの欲望に流されていただけと気付き、ふたりは別れることになった。

 向井くんは、チカとの交際を経て、少しだけ「自分が何をしたいのか」という自分の内なる欲求に気付くことになるのである。

 向井くんはその後、10年前に付き合っていた元カノの藤堂美和子(生田絵梨花)と再会、いっときはよりを戻したように思われていた。しかし、美和子は今も向井くんのことを「元カレ」としか思っておらず、向井くんと付き合いたいわけではないが、このままの関係性を続けたいと少々ズルいことを向井くんに提案する。

 しかし、ここで向井くんは初めて、自分で真剣に美和子とのことを考え、そして自分がなにをどうしたいのかに耳を傾け、美和子に会い、「結婚しなくても幸せになれる」というロジックはわからないが、「それは美和子にとってすごく大きなこと」と理解した上で、美和子にその真意を訪ねる。そして、向井くんは、美和子が実は自分の考えで行動しているのではなく、誰かのほうを向いているのではないかと突きつけ、「美和子が行きたい場所に行くために、向き合う相手は、少なくとも俺じゃない」と、初めて自分の言葉で別れを告げる。

 向井くんがここにたどり着くまでに、息子の幸せを思って結婚をすすめてばかりの迷惑なおやじだった父の向井隆(光石研)や、義理の弟の元気と三人で、ああでもないこうでもないと、自分の頭で考えようとしているシーンが胸にくる。特に父の隆のたどり着いた「せめて自分が何をしたいかわかってないと、迷子になるような気がするなあ。自分の人生の舵は自分がとらないと。そこだけは譲れないだろ」という言葉は確実に向井くんの背中を押していたはずだ。

 向井くんの変化は、いろんな女性たちと付き合ったことで「成長」した、と捉えることもできるだろう。しかし、向井くんがこのドラマの中でしてきたことは、周りと同じような人生を歩めば安心だという考えに毒されて、自分の気持ちに耳を傾けることができなくなる世の中において、シンプルに自分のしたいことは何なのかということにたどり着く旅のようなものであったのではないかと思う。

 ドラマの最後、向井くんは洸稀に会いたい、一緒にいたいという気持ちが湧き出し、自分の言葉でそれを告白する。ふたりがどうなるかはあいまいなままではあったが、向井くんの一歩としては、とても大きなものに見えた。

■配信情報
『こっち向いてよ向井くん』
TVer、Huluにて配信中
出演:赤楚衛二、生田絵梨花、岡山天音、藤原さくら、財前直見、森脇健児、内藤秀一郎、上地春奈、岩井拳士朗、若林時英、田辺桃子、久間田琳加、市原隼人、波瑠
原作:ねむようこ『こっち向いてよ向井くん』(祥伝社フィールコミックス)
脚本:渡邉真子
演出:草野翔吾、茂山佳則ほか
音楽:FUKUSHIGE MARI
チーフプロデューサー:三上絵里子
プロデューサー:鈴木将大、柳内久仁子、妙円園洋輝
協力プロデューサー:福井芽衣
制作協力:AX-ON、ダブ
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
©︎ねむようこ/祥伝社フィールコミックス
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/mukaikun/
公式X(旧Twitter):@mukaikun_ntv
公式Instagram:@mukaikun_ntv

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