『VIVANT』が本当に描きたかったものは“不安定さ”? “1981年”生まれの乃木憂助への共感

『VIVANT』が本当に描きたかったものは?

 コロンビア大学の学生だった時に9.11の同時多発テロを目撃した乃木は「これから世界はテロが渦巻く時代に入っていく」と思い、母国日本を守ために自衛隊に入隊し、すぐさま別班に選ばれた。しかし、彼が自衛隊に入った本当の理由は「国よりも愛する家族を守る」ために軍隊に入ったアメリカ人の友達を羨ましいと思ったからだった。家族がいない乃木は「愛する」ということが理解できず、愛情について知りたいと願っていた。これまで別班として人を殺すことも厭わない乃木の愛国心の強さに危ういものを感じていたが、これは順番が逆で、日本を「愛する家族」だと思うことで乃木は「愛」を求めたのだ。だが、実の父がテロリストという日本国の敵として現れたことで、乃木の心は揺らぐ。

 国家という家父長制度の先ではなく、国家と敵対するテロ組織の頂点に父親がいるという国家と家族の分裂が『VIVANT』の面白い対立軸だが、国家とテロ組織の間で引き裂けれて翻弄される乃木のアイデンティティの不安定さは、彼の年齢と無関係ではないと思う。

 乃木は、1981年生まれの42歳。81年生まれはバブル崩壊後に社会に出たポスト団塊ジュニアの最後尾にあたる就職氷河期世代だ。

 この世代は、10代の時に「キレる17歳」と言われ、同世代による少年犯罪が連鎖的に報じられた。大人になってからも同世代の人間が痛ましい事件を起こしており、昨年起きた安倍晋三元首相を暗殺した犯人も同世代である。

 筆者は彼らより5歳ほど年齢が上で、犯行動機は理解できなくても、不安定な社会に翻弄されてきた彼らの不安定な精神状態が報じられる度に、他人事とは思えないと感じていた。

 表向きは商社マンで、裏では別班の工作員として暗躍する乃木はエリート中のエリートだが、どこにも帰属意識が持てない不安定な心情を見ていると、彼もまた、同世代の業を背負った男だと感じる。

 最終回がどうなるのかわからないが、愛を求めて彷徨う乃木が何らかの型で救われてほしいと、切に願う。

■放送情報
日曜劇場『VIVANT』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
※最終話は79分SP
出演:堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、竜星涼、迫田孝也、飯沼愛、山中崇、河内大和、馬場徹、Barslkhagva Batbold、Tsaschikher Khatanzorig、Nandin-Erdene Khongorzul、渡辺邦斗、古屋呂敏、内野謙太、富栄ドラム、林原めぐみ(声の出演)、二宮和也、櫻井海音、Martin Starr、Erkhembayar Ganbold、真凛、水谷果穂、井上順、林遣都、高梨臨、林泰文、吉原光夫、内村遥、井上肇、市川猿弥、市川笑三郎、平山祐介、珠城りょう、西山潤、檀れい、濱田岳、坂東彌十郎、橋本さとし、小日向文世、キムラ緑子、松坂桃李、役所広司
プロデューサー:飯田和孝、大形美佑葵、橋爪佳織
原作・演出:福澤克雄
演出:宮崎陽平、加藤亜季子
脚本:八津弘幸、李正美、宮本勇人、山本奈奈
音楽:千住明
製作著作:TBS
©︎TBS

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