シン・ミナとイ・スンギのみずみずしい演技 『僕の彼女は九尾狐<クミホ>』に癒される

イ・スンギが演じるダメダメ大学生の華麗な変貌

 ミホを人間界に呼び戻してしまったチャ・テウンを演じるのがイ・スンギで、彼はアクションスターを夢見る大学生だ。金持ちの祖父を持っているため、少々自分勝手でだらしない面があるテウン。祖父の逆鱗にふれて逃げ込んだ寺で九尾狐に脅され、掛け軸から人間界へ出してしまったことから人生が激変する。

 物語の前半は、テウンを見ているとイライラしたり腹が立ったりするところがある。ミホに対する態度で「それはあまりにもひどいんじゃない?」と思わず口に出したくなるシーンも多々あり、テウンの祖父のように「コラ!」と叱りたくなる。

 実は九尾狐の封印を解いた時、テウンは九尾狐から逃げるために崖から落ちて瀕死の状態に陥った。そんなテウンを自らの狐玉で助けたのがミホだった。そんなことも知らず、ミホを追い払おうとしたテウンだが、ミホがいなくなったあとに狐玉のおかげで生かされていたことを知る。

 韓国を代表するアクション映画の監督、パン・ドゥホン(ソン・ドンイル)の作品へ出演が決定したにもかかわらず、崖から落ちた時の傷が完治していないことを理由にドクターストップがかかったことで、テウンは真実を知ったのだ。

 映画に出演するため、ミホに戻ってきてもらおうと必死に彼女を探すテウン。なんとも自分勝手な話だが、ミホは人間になるために狐玉を人間の体内に100日間留めておかなければならないこともあり、互いの利害が一致し一緒に過ごすことになる。

 よくあるパターンといえばそのとおりなのだが、自分勝手なテウンが、ミホの影響を受けて心優しい男性に変化していく姿がとても良い。テウンは幼い頃、両親とともに動物園へ行った帰りに交通事故に合い、自分だけ生き残ってしまった悲しい過去の持ち主だ。祖父や叔母(ユン・ユソン)に愛されて育ったものの、もしかしたら不憫な境遇だったため甘やかされていたのかもしれない。

 実際、自分勝手なところはあるものの、もともと思いやりのある優しい男性であることはミホとのやりとりで確信できる。人間になりたいと願うミホに対して、人間らしいふるまいを教えたり、『人魚姫』の結末をハッピーエンドだと嘘をついたり、ほのぼのとしたシーンが多いのだ。

 テウンはミホが九尾狐だと理解しながらも彼女の純粋で真っ直ぐな心に触れ、次第に一人の女性として惹かれていく。単に100日間一緒に過ごす相手ではなく、ミホの行動や言動が気になり、中でもミホを何かと手助けする謎の獣医師、パク・トンジュ(ノ・ミヌ)に対しては、ライバルのような気持ちを抱く。テウンはやきもちを焼いたりして、かわいらしい面も見せるのだ。

 ミホを守り、成長をみせるたびに、テウンは次第に魅力的な男性になっていく。ミホ同様に物語の後半は、胸が締め付けられるほど切ない想いを味わうテウン。そんな彼の成長していく姿を堪能できる。

ノ・ミヌら、脇を固めるキャストたち

 ドラマを彩る脇役の活躍は、韓国ドラマファンにとって楽しみなところであるが、今回も個性豊かなキャストがそろっている。

 まずは人間界で生きるミホを手助けする謎の獣医師、パク・トンジュを演じるノ・ミヌだ。美しい顔立ちで、主役のイ・スンギに負けず劣らず存在感を発揮している。半分人間で半分妖怪といった立場でミホが人間になるのを手助けするが、実は悲しい過去の持ち主でもある。

 トンジュは基本的に人間を信じていないため、ミホに対して人間のネガティブな部分を強調しがちだ。そしてミホがテウンを好きになればなるほど、その気持ちを封印しようと躍起になる。ミホにとって味方なのか敵なのか、非常に微妙な立場の人物なのだ。

 しかし、「人間になることを教えてくれるのだから、トンジュ先生だろ」と無邪気に語るミホの純粋さと、ミホを必ず守ると誓うテウンの優しさを目の当たりにし、トンジュの冷たい心が少しずつ温かいものに変化していく。過去の呪縛から放たれていくトンジュの変化をしっかり見届けたい。

 そして、コメディの部分を一手に引き受けているのが、テウンの叔母、チャ・ミンスク(ユン・ユソン)とアクション映画の監督、パン・ドゥホン(ソン・ドンイル)だ。この2人は大人のサブカップルという立ち位置で、視聴者を思い切り笑わせてくれる。

 ユン・ユソンといえば、昨今は母親役として韓国ドラマファンにはおなじみだ。記憶に新しいところでは、ウ・ドファンとイ・サンイが出演した『ブラッドハウンド』で、イ・ドファンが演じるゴヌの優しい母親役を繊細に演じていた。

 ソン・ドンイルは、チョ・スンウ&パク・シネが出演した『シーシュポス:The Myth』で、アジアマートの社長という謎めいた人物を演じているように、癖のある人物を演じることが多い。しかし今回は、香港の映画スター、チョウ・ユンファを敬愛するアクション映画監督・ドゥホンをコメディータッチたっぷりに演じている。

 どちらかというとシリアスな演技をすることが多い2人が、体を張ってコメディーに挑戦しているところが面白い。アイスコーヒーの氷を喉につまらせたミンスクを、ドゥホンが担ぎ上げて氷を吐き出させるなど、2人が登場すると必ずアクシデントが起きる。そんなドタバタをベテランの2人が演じるのは、なかなか新鮮だ。ミホとテウンの関係に心が痛くなってくる物語の後半で、彼らが笑いをもたらしてくれる効果はかなり大きい。

 ミホは人間になることができるのか、テウンとの未来はどうなるのか……。さまざまな試練を乗り越えていく2人だが、ミホが「ノームノム、チョア!(すごーく好き!)」と笑顔でテウンに言う姿を見ているだけで癒される本作をぜひ楽しんでほしい。

■配信情報
Netflix『僕の彼女は九尾狐<クミホ>』
Netflixで配信中
出演:イ・スンギ、シン・ミナ、ノ・ミヌ
脚本:ホン・ジョンウン、ホン・ミラン
監督:プ・ソンチョル
(画像はSBS公式サイトより)

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